化学物質を原因とする公害の訴訟上の争点の変遷について

※作成時の法律、判例に基づく記事であり、作成後の法改正、判例変更等は反映しておりません。

水俣病のような化学物質による環境汚染の公害において、環境汚染状況が改善されずに公害被害者が訴訟提起に至る場合と、環境汚染状況が一定期間で改善されてから相当期間経過後に訴訟を提起する場合を比較しますと、訴訟上の主な争点は、後者の方が増加する可能性が高いものと考えられます。

これは、化学物質曝露により発症する公害病の場合、化学物質への高濃度・短期間の曝露により発症する急性の公害病と、低濃度・長期間の曝露により生じる慢性(遅発性)の公害病とでは、公害病罹患のプロセスが異なり、公害病に罹患していることの証明に必要な事実が異なってくると考えられるところ、慢性(遅発性)の公害病では、公害病の原因物質の最終曝露からの経過時間が、急性の公害病と比較して長くなり、原因物質曝露と訴訟提起時点の公害病患者の症状との間の因果関係の証明に必要な事実が増加すると考えられるからです。

しかし、訴訟では、先行する同種の訴訟の判決の影響を受けることから、潜在的な争点の一部は顕在化せず、実際に訴訟において争点化されるのは、先行する同種の裁判において判断がなされていない事項に絞り込まれることとなります。
そこで、実際には主要な争点が異なってくるとするのが正確であると考えられます。
水俣病訴訟に関しては、越智敏裕『環境訴訟法 第2版』pp.122-131(日本評論社、2020)でも同種の考察がなされております。

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