退職願を提出したあとで、退職の意思を失った場合、退職願を撤回することはできるのでしょうか。
ここでは、退職願の法的性質から、その提出の効力に触れた上で、退職願の撤回可能性、撤回が可能であるとすれば、その撤回できる時期の限界、および撤回のために必要と考えられる手続きについて解説します。
目次
一度提出した退職願を撤回することは可能でしょうか
退職願を勢いで出してしまいました。
しかし、一晩寝て冷静になったところ、退職の意思はなくなっていました。
このような場合、会社に提出した退職願を撤回することは出来るものなのでしょうか。
以下のように、このような場合でも、タイミングによっては、退職願を撤回できることもあります。
しかし、遅くなればなるほど、撤回できる可能性は低くなります。
早目に対応することが肝要です。
会社が承諾するまでは撤回できる可能性があります
一般的な退職願は、従業員が、一方的に、辞職の意思を会社に伝えるものであり、会社側がこれを承諾し、合意退職として労働契約が終了するケースが多いものと思われます。
そうしますと、退職願は従業員からの退職の申し込みであるといえ、民法523条1項本文か525条1項本文あたりが適用され撤回できないのではないかとも考えられます。
しかし、労働契約は単発の売買契約等とは異なり、長い期間契約が継続する継続的契約なので、民法523条以下の規定は適用されないと考えられています。
裁判例(岡山地判平成 3年11月19日)でも、
原告の提出した本件退職願が原被告間の雇用契約関係終了のための合意解約申込みの意思表示であることについて、当事者間に争いはない。ところで、被用者による雇用契約の合意解約の申込みは、これに対して使用者が承諾の意思表示をし、雇用契約終了の効果が発生するまでは、使用者に不測の損害を与えるなど信義に反すると認められるような特段の事情がない限り、被用者は自由にこれを撤回することができるものと解するのが相当
岡山地判平成 3年11月19日
と判示して、特段の理由がなければ、使用者(会社)が、承諾の意思表示するまでの間、労働者は退職願を撤回できるとしています。
人事権者が受理すると撤回できなくなる可能性が高いです
いつまで撤回することが出来るのでしょうか
それでは具体的にはどの時点まで撤回できるのでしょうか。
最判昭和62年9月18日では、原審が人事部長が受理しただけでは、退職願の承認の効果が発生しないと認定したのに対し、
・・・原判決は、前記のとおり、・・・部長を上告人の人事管理の最高責任者であるとし、同部長が被上告人の退職願を即時受理した事実を認定しながら、右受理をもって被上告人の解約申込に対する上告人の承諾の意思表示があったものと解することができないとしている・・・(しかし、)採用後の当該労働者の能力、人物、実績等について掌握し得る立場にある人事部長に退職承認についての利害得失を判断させ、単独でこれを決定する権限を与えることとすることも、経験則上何ら不合理なことではないからである。したがって、被上告人の採用の際の手続から推し量り、退職願の承認について人事部長の意思のみによって上告人の意思が形成されたと解することはできないとした原審の認定判断は、経験則に反するものというほかはない。
最判昭和62年9月18日
と判示し、退職承認の決定権のある人事部長の退職願受理により、使用者(会社)の承諾の意思表示を認めうるとしていますす。
この判例からすれば、人事の決定権を有する役職者が受理する前であれば退職願の撤回も可能と考えられます。
どのように撤回すればよいのでしょうか
退職願を撤回しようとする際には、トラブルを回避するためにも、口頭で撤回を申し出るのではなく、退職願撤回通知書などの書面をもって撤回の意思表示をおこなうべきと考えられます。
そこで、退職願を出してしまったが、撤回したいと考え直した人は、直ぐに退職願撤回通知書を書き、朝一番で提出することとなります。
その時点で、人事(労務)の決定権を有する役職者が未だ退職願を受理していなければ、撤回できる可能性はあります。