進退伺い提出を拒否したことを理由に懲戒解雇出来るのでしょうか

※作成時の法律、判例に基づく記事であり、作成後の法改正、判例変更等は反映しておりません。

進退伺い提出を拒否した場合の問題

進退伺いの提出を拒否したことを理由とした懲戒解雇の問題

Aさんが退出時の施錠を忘れたことにより、会社に泥棒が侵入して重要物を盗まれてしまいました。
Aさんは以前にも同様に施錠を忘れたことがありました。
この事件の直後にAさんは会社から進退伺いを提出するよう求められましたが、Aさんはこれに従わずに進退伺いを提出しませんでした。
そうしたところ、進退伺いの未提出を理由に、会社の人事から懲戒解雇にすると言われてしまいました。
Aさんはどのように考えればよいのでしょうか。

進退伺い提出拒否を理由とするAさんの懲戒解雇は・・・

下記のように、一般的な進退伺いは、謝罪の意を含むものとなっており、提出を強要することは、良心の自由、意思決定の自由を侵害することとなります。
そこで、そのような進退伺いの提出を強要することは許されません。
よって、未提出を理由とした懲戒解雇は無効だと考えられます。

進退伺いの提出命令は可能なのでしょうか?

進退伺いとは

一般的には、進退伺い(「しんたいうかがい」と読みます。)とは、

  • 謝罪の意を表明し
  • 責任を取って辞職すべきかを会社の判断に委ねる

ことを内容とするものです。

進退伺いの提出を命ずることはどのような意味があるのでしょうか

このような進退伺いの性質から、Aさんのケースで特に問題となるのは、謝罪の意を表明する進退伺いのような文書の提出を、会社が命ずることが出来るのかという点です。

尚、始末書にも同様に謝罪の意を表明するものもありますが、そのような始末書の提出を会社が命ずることが出来るのかということも同様な問題といえます。

進退伺いの提出を強制することは許されるのでしょうか

一般的には、謝罪の意を表明する文書の提出を、会社が従業員に命ずることは認められないと考えられています。
従業員の良心の自由、意思決定の自由を侵害することになるということが、その理由であると考えられています。

しかし、単に事実経過を報告させる顛末書、あるいはそのような報告書の提出を求めることは業務命令としても可能です。

進退伺いは、上記のように謝罪の意を含むものです。
そこで、進退伺いの提出を強制することは、謝罪を強要しているのと変わらないとも言い得ます。
したがって、そのような進退伺いの提出を命じることは許されないと考えられます。
このことは、謝罪の意を表明する始末書においても同様です。

ただし、進退伺い(あるいは謝罪の意を含む始末書)の提出を促す程度で、強制にまで至っていなければ、そのような進退伺い提出の促しは許されると考えられています。
しかし、会社と従業員という労使の立場から生じる力関係からしますと、単に「促しただけ」と言い得るのは限定的な場合だと考えられます。

進退伺い未提出を理由とした懲戒解雇は有効なのでしょうか

次に、Aさんのケースでは、進退伺いを提出しなかったことを理由とする懲戒解雇の有効性も一応問題となり得ます。

Aさんのケースでも、上記のように、進退伺いの提出を業務命令として求めることは出来ません。
そうすると、その未提出を懲戒事由とすることは出来ないこととなります。
したがって、進退伺いの未提出を理由にした懲戒処分は無効となる可能性が高いと考えられます(尚、謝罪の意を含むような始末書の提出に関しても同様に考えられます。)。

しかし、単に事実の経過を報告する内容の顛末書あるいは報告書と言った書面の提出を求められたのにもかかわらず、その提出をしないような場合には、業務命令違反として懲戒処分の対象となる可能性は考えられます。

Aさんの対処方法は

これらのことから、Aさんの懲戒解雇は無効と判断される可能性が高いものと考えられます。
このようなケースでは、早急に公的機関の相談窓口あるいは弁護士などに相談すべきと思われます。

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