退職申出後に支給される賞与の減額について

※作成時の法律、判例に基づく記事であり、作成後の法改正、判例変更等は反映しておりません。

退職申出後の賞与が減額された場合の問題

賞与を減額されたAさんの問題

Aさんの現在勤務している会社の規定では、計算上、Aさんの6月中旬に支給される夏の賞与は50万円となります。
しかし、Aさんは転職のため6月一杯で今の会社を退職するつもりで、会社にも5月の末には6月末の退職を申し出ていました。
Aさんは6月の賞与でテント泊用の装備一式をそろえるつもりでしたが、蓋を開けてみると夏の賞与は40万円しか支給されませんでした。
これでは、かねて目をつけていた軽量のテントとシュラフ等のテント泊装備一式を購入することが出来ません。
Aさんは、計算違いではないかと考え、会社の人事担当に問い合わせてみると、「退職する予定なのだから減らしたよ。」とのことでした。
Aさんはどう考えるべきなのでしょうか。

賞与の法的性質と退職申出後の減額の可否

下記のように、賞与の算定方法が就業規則等の社内規定に定められているAさんの場合、賞与も法的には賃金に含まれると考えられます。
しかし、賞与は将来に対する期待部分も含んでいることから、退職が決まっている従業員に関しては、一定の範囲で減額することも可能と考えられます。
そこで、Aさんのケースのように2割程度であれば、会社は有効に減額し得ると考えられます。

賞与の法的性質と支給義務について

「賃金」については労働契約上、会社に支給の義務があります。
それでは、賞与は法律上の「賃金」に該当するのでしょうか。

労働基準法11条では、賃金について、

第十一条 この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。

労働基準法11条

と定義しています。

そこで、賞与についても労働協約、就業規則、賞与規程、労働契約等により支給時期、金額、算定方法等が定められているような場合、賃金に該当すると考えられています。

退職前を算定期間とする賞与の退職後支給義務

通常の給与に関しては、退職時に支給日が到来していない退職前勤務分についても会社は支払い義務を負っています(労働基準法23条1項参照)。

しかし、通常の給与とは異なり、会社は、退職前の時期を算定(対象)期間とする賞与を、退職後に支給する義務を負うものではありません(勿論、支給することは可能ですが、年俸制を採用しているようなケース以外では稀だと思われます。)。
賞与支給日に在籍していることを賞与支給の要件とする「支給日在籍要件」も、合理的な範囲であれば、就業規則などで有効に規定し得ると考えられています。

尚、Aさんのケースでは、退職日が賞与支給日のあとであることから、この支給日在籍要件は関係ありません。

退職予定者の賞与減額について

それでは、賞与も毎月支給される「給与」と同様に、賞与規程などで規定された算定方法に従った金額を全額支給することまで要求されるのでしょうか。
もし、会社がその義務を負うのであれば、Aさんのケースでも会社は夏の賞与として50万円を支払う義務があることになりそうです。

この点につきましては、賞与の性質が影響してきます。
賞与には過去の実績に対する功労褒賞的な部分とともに、過去の賃金とは無関係な純粋に将来に対する期待部分が含まれていると考えられています。

したがって、退職予定者に対し不当に賞与の減額をおこなうことは許されませんが、将来の期待部分については減額して支給することも合理性があることとなり得ます。
Aさんの場合、2割が減額されているのですが、この程度の割合を賞与のうちの将来の期待部分と考え、退職予定者の賞与から減額することも可能であると考えられそうです(東京地判平成8年6月28日参照)。

Aさんのケースについて

Aさんのケースでは、就業規則などで賞与の算定方法が規定されていることから、賞与も労働基準法上の賃金に含まれると考えることができそうです。
また、支給日在籍要件が規定されていたとしても、賞与支給日には在籍していたことから賞与の支給を受けられなくはなりません。

しかし、2割の減額は将来の期待部分として退職予定者であるAさんの賞与から減額されたと考えることができ、その2割という割合は相当範囲内の減額幅と考えられます。
そこで、Aさんは、会社に対して、減額部分の支払いを求めることは困難であろうと考えられます。

したがいまして、Aさんも予定より10万円少ない賞与の範囲内でやりくりして、お手頃なテント、シュラフ等を神保町界隈で探して揃えることとなりそうです。

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