年次有給休暇の取得について

年次有休休暇について

会社に勤めはじめて6ヶ月が経過するまでの間、「全労働日の八割以上出勤」していると10日の年次有給休暇年休有給)(以下「年休」といいます。)が付与されます。
このことは、労働基準法39条1項に規定されています。

また、「全労働日の八割以上出勤」していると、毎年付与される年休の日数が少しずつ一定日数まで増えていきます(労働基準法39条2項参照)。

尚、週所定労働日数が4日以下かつ週所定労働時間が30時間未満の労働者の付与日数については別途定めがありますが、ここでは通常の労働者の付与日数について述べることとします。

全労働日の8割以上の出勤の意味

労働基準法の「全労働日」とは

労働基準法39条の「全労働日」については、判例では、「労働基準法・・・三九条一項にいう全労働日とは、一年の総暦日数のうち労働者が労働契約上労働義務を課せられている日数をいうものと解すべき」(最判平成4年2月18日)とされています。
一般的には、総暦日数から就業規則、労働契約書などで定めた休日を除いた日が労働基準法上の全労働日ということになります。

労働基準法の「出勤」した日とは

それでは、この“8割以上出勤”の「出勤」した日には

  1. 早退した日は含まれるのでしょうか。
  2. 年休を取得した日も含まれるのでしょうか。
  3. また、休日出勤した日は含まれるのでしょうか。

この点につきましては、年休を考える上での出勤日には、

  1. 早退した日は出勤日に含まれ
  2. 年休を取得した日も出勤日に含まれるとされていますが、
  3. 休日出勤した日は含まれないとされています。

尚、業務上疾病により休業した期間、育休、介護休業の期間等も出勤日に含まれるとされています。

退職する年度の年休付与日数

年度途中で退職する際の年休の付与日数に関する疑問

次に、今年度、年休を計算上20日付与される従業員が、今年度の途中、丁度6ヶ月経過時点において退職することが年度初に決まっていた場合、今年度の年休の付与日数は何日になるのでしょうか。
今年度、年休は20日の半分の10日しか付与されないのでしょうか。
今年度の勤務期間を考えると半分しか付与されないようにも思われます。

時季指定権との関係から考えられること

しかし、年休は一定期間勤務することにより当然に発生する権利です。
そして、従業員は有給休暇の取得時期を決定する時季指定権を有しており、年休をいつ取得するかは原則として従業員の自由です(尚、会社の時季変更権により一定範囲で実質的に時季指定権行使の制限が生じることはあり得ます。)。
また、年間10日以上の年休が与えられる従業員に関しては、従業員が自ら年休を取得しない場合、会社が5日の年休の取得時期を定める義務(年次有給休暇の時季指定義務)を負うことになり、例外的に会社から年休の取得時期を定められることがあります(労働基準法39条7項)。

これらのことから、退職予定が無い場合でも、従業員の希望によっては、最初の3か月間でその年度の年休を全て取得することも可能となっています。
また、年休取得時期は原則として自由なので、年度初めには年度途中での退職が決まっていなかった従業員が、年休を全て取得した後に退職することも可能となります。

年度途中での退職でも年休日数は削減できません

上記のように、①年休は一定期間勤務することにより当然に発生する権利であり、②年休の取得時期は原則として従業員が自由に決められるものです。
このことからもわかりますように、年度の途中で退職の予定があるからといっても、勤務予定期間の割合に応じて年休日数を減らして付与することは許されません。

そこで、今年度、計算上年休を20日取得できる従業員は、年度の途中に退職の予定があったとしても20日間年休を付与されることとなります。

年休の取得申請時期について

次に年休の取得申請時期についてみてみます。

当日朝の取得申請での年休取得について

年休を当日の朝に申請した場合でも、年休は必ず認められるのでしょうか。
勤務している会社が2日前までに年休の申請をするよう内部規則で定めていた場合、前日の年休申請は認められないのでしょうか。

従業員は年休の取得時期を指定する時季指定権を有していることから(労働基準法39条5項本文)自由に休めるようにも思われます。
しかし、会社も年休の取得時期の変更を求めことが出来る時季変更権を有しています(労働基準法39条5項但書)。
従業員が年休の取得を当日朝に連絡し、時季指定権を行使した場合、会社は時季変更権を行使できないこともあり得ます。
したがって会社の時季変更権行使保障の観点から、当日の年休申請は認められない場合があってもやむを得ないと考えられます。

時季指定権の行使時期を制限する規定の有効性の問題

次に、2日前までに年休の申請を義務付けている規定が設けられていた場合、そのような規定は時季指定権を侵害するものとして無効となるのではないかという問題もあります。

会社が時季変更権を行使して年休の取得時期を変更するよう求めることが出来るのは、従業員が指定する時期に有給休暇を取得されると事業の正常の運営が妨げられる場合となります。
そうしますと、事業の正常の運営を確保するために、時季変更権を行使しうる時間を確保するために合理的な範囲で年休申請のタイムリミットを設定することは可能と考えられます。
したがって、人員配置上2日前までに申請を受けなければ調整が出来ない等の理由があれば、2日前までに年休の申請を義務付ける規定も有効と考えられます。

しかし、硬直的に如何なる場合でも前日の申請を認めないとするのは、場合によっては違法となる可能性も否定できないことには注意が必要です。

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