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会社の健康診断受診拒否を理由とする懲戒処分は有効なのでしょうか?
健康診断受診拒否による懲戒の問題
Aさんは子どものころから病院嫌いであったこともあり、会社の健康診断をうけていませんでした。
会社の人事担当からは、再三にわたり定期健康診断を受診するよう求められてきたのですが、これを長年放置してきました。
そうしたところ、先日、とうとう会社に懲戒処分されてしまいました。
Aさんは、この懲戒処分を不当処分だと会社に対し主張することは出来るのでしょうか。
業務命令違反として懲戒も有効となりえます
このAさんの健康診断受診拒否も、以下のことから、業務命令違反と考えられます。
そこで、そのような場合を懲戒事由とする規定が会社の就業規則に定められているのであれば、Aさんへの懲戒処分も有効となり得ます。
会社の健康診断は法律上どのような位置づけなのでしょうか?
ところで、Aさんには健康診断を受診する権利はあるとも思われるのですが、健康診断を受診する義務はあるのでしょうか。
健康診断については労働安全衛生法に規定があります
このことを考えるにあたり、まず、会社における定期健康診断の法律上の位置づけを確認しておきます。
労働安全衛生法は、会社に健康診断の実施を義務づけており、これにより、Aさんの会社も定期健康診断を実施する法律上の義務があると言えます。
一方、労働安全衛生法では、従業員に対しても健康診断の受診義務を負わせています(労働安全衛生法66条5項)。
したがって、Aさんにも健康診断を受診する法律上の義務があることとなります。
健康診断受診拒否による懲戒処分
しかし、会社が従業員向けの健康診断を実施しない場合については、罰則が法律上定められていますが、従業員が健康診断を受診しない場合の罰則は法律上定められていません。
このことから、会社と従業員では、健康診断に対する義務の程度が異なるとも考えられます。
そうしますと、従業員が健康診断を受診しない場合でも懲戒処分までは出来ないようにも思われます。
それでは、健康診断未受診は懲戒処分の対象となりうるのでしょうか?
Aさんの場合、再三会社の人事から健康診断受診を催促されていることからすると、健康診断受診の業務命令が会社から発せられていたものと考えられます。
そして、健康診断の実施は法律上、会社に義務づけられ、従業員にも法律上受診義務が課せられているのですから、特段の理由がなければ、健康診断受診の業務命令は正当なものと考えられます。
そうしますと、Aさんの行為は正当な業務命令に対する違反行為となります。
そこで、このAさんの業務命令違反行為が、就業規則に定められている懲戒事由に該当するのであれば、懲戒処分の対象になりうるものと考えられます。
仮に、懲戒処分の対象となり得るのであれば、懲戒処分の内容(処分の重さ)が適切なものであるかが問題となるに過ぎないこととなります。
尚、懲戒処分の一般的な有効性の問題につきましては下記の記事でも扱っています。
会社での健康診断を拒否しても懲戒処分とならないケース
ところで、前述の従業員の健康診断受診義務を規定する労働安全衛生法第66条5項は、「労働者は、前各項の規定により事業者が行なう健康診断を受けなければならない。」とした後、但書として、「ただし、事業者の指定した医師又は歯科医師が行なう健康診断を受けることを希望しない場合において、他の医師又は歯科医師の行なうこれらの規定による健康診断に相当する健康診断を受け、その結果を証明する書面を事業者に提出したときは、この限りでない」と規定しています。
そこで、会社が実施する健康診断の代わりに同様な検査項目の健康診断を別の病院で受診し、その結果を会社に書面で提出した場合、会社は懲戒処分することは出来ないと考えられています。