会社が定める休日に出勤したとき、その出勤の代わりに、本来出勤日であった日に休みを取得することがあります。
このような場合に代わりに休む日の勤怠管理上の扱いとしては、振替休日、代休、および年休があります。
これらの振替休日、代休、年休はどのように違うのでしょうか。
また、どれを取得するかにより、休日と代わりに休んだ日の賃金支給額は違ってくるのでしょうか。
ここでは、振替休日、代休、年休の法的な性質、割増賃金を含めた賃金支給面の相違について解説します。
目次
休みの日に出勤した時の問題
AさんとBさんは会社の同僚で、2人の会社では、就業規則上、土日祝日が休日となっています。
Aさんは、今週の日曜日にサーバーのメンテナンスの為に出勤するように命じられ、代わりに昨日会社を休みました。
Bさんは、一昨日年休を取得し、11時から神保町の登山用品店で前から欲しかったテントをみていた時、突然会社から電話がありました。電話口で、仕様変更があるので午後から出社するよう言われたことから、テントを諦め、その足で会社へ向かい、午後から仕事をしました。
AさんとBさんは年休を取得した扱いとなるのでしょうか。
振替休日、代休、年休取得について
休日出勤した代わりの3つの休み方
まず、Aさんの場合ですが、
- 会社から今週の日曜日の前に、日曜日の休みを昨日に振り替えるように言われていた
- 今週の日曜日に出勤したあと(たとえば今週の月曜日)に日曜日の代わりに昨日休むようにいわれた
- 会社からは、今週の日曜日の出勤は命じられたが、それに代わる休みの話は出ていなかったものの、自発的に昨日休んだ
という3つのケースが考えられます。
休日と休暇の違い
まず、休日と休暇の違いを確認しておきます。
労働法(尚、「労働法」という名称の法律が制定されているわけではなく、労働関係、労使関係の諸法規をまとめてこのようにいいます(その他広狭、さまざまな使用方法が存在します。))との関係では、休日とは、労働契約上、労働者が労働の義務を負わない日のことを指します。
休日労働(休日出勤)とは、この休日に働くことを意味します。
一方、休日以外の日、つまり労働契約上、労働の義務を負う日のことを労働日といいます。
そして、休暇とは、労働日において、労働者が労働の義務を免除される日のことをいいます。
このように、休日は会社との契約では元々働く義務のない日であり、休暇は契約上働かなければならない日に権利として休むという違いがあります。
振替休日について(上記1のケース)
次に、上記のAさんに関する3つのケースが、法的にはどのように位置づけられるかについて考えてみます。
1のケースでは、会社が、本来休日であった日の前に、休日に該当する日を他の日に振り替えたものといえます。
このような場合、振り替えられた後の休日のことを振替休日といいます。
Aさんが昨日休んだのは、振替休日に休んだものと考えられます。
年休を取得しての休みではありません。
一方、元々の休日であった日は労働日となります。
そこで、このケースでは今週の日曜日は労働日(出勤日)として扱われ、日曜日に勤務した分には休日出勤手当は発生しません。
尚、会社が休日を振り替えるには、
- 振替休日に関し就業規則などで定められているか、労働者の合意を得ること
- 元々の休日(出勤日にする日)が到来する前に振替指定すること
- 振替後の休日が労働基準法35条に違反しないこと
が必要となります。
代休について(上記2のケース)
2のケースでは、1のケースとは異なり、事前に休日を振り替えていないことから、通常は振替休日が設けられたものとはなりません。
そこで、このケースでは、今週の日曜日は休日に出勤したこととなります。
そして、昨日は勤務日ではあったものの、会社から労働(勤務)を免除されたということになり、昨日のような休みを代休といいます。
この場合、日曜日に出勤していることから、日曜日が法定休日に該当するのであれば、日曜日の労働時間には割増賃金が支払われることとなります。
尚、「法定休日」と「割増賃金」については、下記の記事をご参照ください。
一方、昨日は、本来の出勤日ですが、実際には勤務していません。
そこで、本来であれば昨日分の給与は控除されることとなります。
しかし、通常、給与計算上の人事の対応としては、休日出勤手当と相殺し、休日出勤の割増分のみを支給することとなります。
ただし、休日出勤日と代休取得日が異なる月(給与計算上の計算期間)となる場合には、休出日と代休日の賃金を単純に相殺すると、労働基準法24条1項の賃金の全額払いの原則、あるいは同条2項に抵触する可能性があることから、月をまたいだ代休取得は避けるべきと考えられています。
この点につきましては、下記の記事で扱っています。
いずれにしましても、上記の1と2のケースでは、昨日の休みは年休扱いとなりません。
年休取得について(上記3のケース)
次に3の場合ですが、会社から昨日休むように言われたわけではないことから、今週の日曜日は休日出勤となります。
そこで、仮に日曜日が法定休日であれば、割増賃金が割増分のみではなく全額支給されることとなります。
一方、昨日は、あくまで自発的に休んでいるので通常は年休を取得したこととなります。
振替休日、代休、年休の違い
このように1のケースは振替休日、2のケースは代休、3のケースは有給取得ということになります。
1と2の振替休日と代休では、昨日の休みは年休扱いになりませんが、3のケースでは年休取得となります。
また、今週の日曜日の労働時間は、1のケースでは通常の労働日の勤務として扱われ、休日の割増賃金の対象とはなりません。
一方、2と3のケースでは、今週の日曜日は休日出勤をしたこととなり、日曜日が法定休日であれば、休日の割増賃金の対象となります。
代休と年休を会社が指定できるのでしょうか
上記のように、代休と年休取得では、代わりに休む日について、代休であれば賃金が発生せず、年休とすると賃金が支給されるという違いが生じます。
そこで、賃金を支払うのを回避するために、会社から従業員に対し、代休を利用して休むように指示することはできるのでしょうか。
この点、労働基準法39条5項本文の年休の時季指定権があることから、従業員は、休日出勤をした後に、代休ではなく、年休取得申請をすることは可能です。
一方、労働基準法39条5項ただし書きにより、会社には時季変更権はありますが、従業員が時季指定した年休取得日に代休を認めようとしている以上、同条の「請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するとはいい得ません。
このことから、従業員の年休取得申請に対し、年休ではなく代休を取得するように命ずることは困難であると考えられています。
尚、年休の時季指定権と時季変更権に関しては、下記の記事で扱っています。
年休取得日の会社からの呼び出しと年休
続いてBさんの場合をみてみます。
まず、原則論からは、Bさんは年休の時季指定権を行使して一昨日年休を取得しています。
そこで、会社から電話が掛かってきた時点ではすでに年休を行使していたことになります。
よって、会社は時季変更権を行使することは出来ず、Bさんは午後からの出社を拒否することも可能であったこととなります。
このように、午後からの出社を拒否することも可能ではあったのですが、Bさんも同意して午後から出社しているのですから、午前中は半休を取得したとも考えられそうです。
しかし、年休は1日単位で与えるのが原則であり、半休は、従業員側から請求があった時に半日単位で与えられるに過ぎず、会社から半休を指定できるものではないと一般的には考えられています。
そうしますと、Bさんのケースでも半休を取得したことにはなりません。
また、会社からの指示で年休を半分(午後の分)は消化していないこととなります。
そこで、このような場合、年休取得は成立していなかったものとして扱い、一昨日分の年休は未消化ということになるのが原則です。
したがいまして、Bさんの場合は、一昨日は年休を取得しなかった扱いとなります。