転職後の配置転換と給与減額-転職時条件と異なる入社後の人事の問題

※作成時の法律、判例に基づく記事であり、作成後の法改正、判例変更等は反映しておりません。
この記事で扱っている問題

転職後のトラブルとして、入社後に転職時の労働条件から

  • 職種の変更をともなう配置転換
  • 賃金減額をともなう配置転換

がおこなわれたときの問題について事例をもとに解説しています。


転職者の配転とそれにともなう賃金の減額

転職者の入社後の配置転換および給与減額の問題

Aさんは、会社の人事から、営業部からシステム部へ異動を命じられました。
それに伴い、職務手当がなくなるなどして給与が月に5万円減額されることとなりました。
Aさんは5年前に今の会社に転職してきたのですが、その入社時の契約では、Aさんの職種は営業職となっていたことから納得が出来ません。
Aさんは会社に対して何か言えるのでしょうか。

Aさんへの措置の問題点と有効性

Aさんの場合、転職入社時の契約条件から

  1. 職種の変更をともなう配置転換が、職種の限定との関係で許されるのかという点
  2. 賃金減額を伴う配置転換が許されるのかという点

が問題となり得ます。

しかし、下記のことから、特段の事情がなければ、配転命令は有効となる可能性が高く、賃金減額も減額幅が受忍限度内であれば有効と考えられます。

転職者の配転について

会社の配置転換(配転)とその根拠について

まず、配転(配置転換および転勤)の一般的な可否につきましては、労働契約の締結により労働処分権としての配転命令権を会社が有することとなり、その配転命令権により配転が可能になると考えられています。
この点につきましては、下記の記事で解説しています。

この会社の配転命令権の行使可能範囲は広くとらえられており、具体的な配転命令が権利濫用と認められる場合を除き有効に配転命令をなし得ると考えられています。
これは、長期雇用を前提とする日本企業が、各種の業務を経験させながら従業員を育成しているという点を重視していることによるものといえます。
ただし、この長期雇用の前提も変化してきていることから、その影響が配転命令権の行使可能範囲にも及んでいく可能性は否定できません。

職種限定の合意の対象となる従業員および拘束期間

上記のように労働処分権も労働契約から生じるものであることから、転職入社時、とくに職種を限定する合意が成立していたような場合、会社の配転命令権も一定の制限を受けることとなり得ます(労働契約法7条ただし書参照)。
しかし、このような職種限定の合意の成立が認められるのは、従業員が特殊な技術・技能・資格を有する場合に限られると考えられています。

尚、長期雇用を前提とした採用では、職種限定の合意の成立が認められる場合でも、相当期間経過後には他の職種への配転をなし得るという(黙示の)合意が会社と従業員の間に成立しているとされることもあります。
その場合、会社は、入社から相当期間経過した従業員であれば、入社時に職種限定の合意があっても他職種へ異動し得るということになります。

Aさんの配置転換の可否

これらのことからしますと、Aさんの営業が特殊な技能・資格が必要なような内容であれば、職種限定の合意成立が認められる余地があり、会社の異動命令に対して異議を述べることも可能となり得ます。
ただし、その場合でも、転職入社から5年経過していることからしますと、会社の異動命令は有効であると判断される可能性もあり得ます。

一方、Aさんの営業がそこまでの専門性が高いものでなければ、会社が不当な動機・目的で異動命令を下したような事情がなければ、配転命令は有効なものとされる可能性が高いものと思われます。

賃金の減額を伴う配転の可否について

次に、賃金減額を伴う配転の問題ですが、職務の変更により職務等級が降級され、それに伴い賃金も減額された措置の有効性が争われた裁判例(東京地判平成27年10月30日)では、

本件人事発令には業務上の必要性が認められ,他の不当な動機・目的を持ってされたものであると認められない一方,これに伴うグレードの変更と基本給及び賞与の減額等を勘案しても,原告に生じた不利益が通常甘受すべき程度を超えるものとはいい難いから,本件人事発令及びこれに伴う原告のグレードの変更を人事権の濫用として無効とみることもできない

東京地判平成27年10月30日

と判示されているように、異動命令が不当なものではない場合、賃金の減額が一般的に許容され得る範囲内(受忍限度内)であれば、賃金の減額も有効となり得ると考えられています。

Aさんの場合、給与総額が不明なので明確ではありませんが、配転命令が有効であると判断され、更に給与の減額が受忍限度内と考えられれば、賃金の減額も有効と判断されることとなります。

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