ハンマー投げのハンマーの瑕疵での事故で国賠法2条1項請求は可能か

問題の所在

国家賠償法2条1項と1条1項に基づく損害賠償請求の相違

国または公共団体が管理するハンマー投げのハンマーの、物理的な瑕疵が原因で事故が起きた場合、管理者の過失が認定できれば、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求が可能な場合もあります。
しかし、国家賠償法1条1項は、損害を被った原告が、管理者の過失を証明する責任を負います。
一方、国家賠償法2条1項に基づく損害賠償請求であれば、同項は無過失責任であることから、管理者の過失の証明が不要となります。
そこで、ハンマーの管理者に対し国家賠償法2条1項に基づく損害賠償請求が可能なのであれば、一般的には、証明を要する事項の少ない(立証責任が軽い)国家賠償法2条1項に基づく損害賠償請求を検討することとなります。

ただし、国家賠償法1条1項の過失と2条1項の瑕疵の判断は実質的に重なることも多いことから、必ずしも2条1項による請求の方が有利とも言い切れません。
この国家賠償法1項1条と国家賠償法2条1項との関係につきましては、下記の記事で扱っていますので参考にしていただければと思います。

また、国家賠償法2条1項の瑕疵につきましては、下記の記事でも扱っていますので、こちらも参考にしていただければと思います。

ハンマーのような動産が公の営造物に該当するかの問題

これまでの国家賠償法2条1項の責任に関するブログ記事では、登山道、遊歩道、スキー場、国有林野等の不動産の瑕疵が問題となるケースをみてきました。しかし、ハンマーはそれらとは異なり動産です。

国家賠償法2条1項の条文は、

道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。

国家賠償法2条1項

となっており、公の「営造物」の例示として「道路、河川」をあげていることから、不動産のみが「営造物」に該当しうるとも読めなくはありません。
同項の条文をそのようにとらえますと、ハンマーのような動産は「営造物」に該当し得ないとも考えられます。

ハンマーは営造物なのか

ハンマーが営造物に該当するかが問題となった裁判としましては、公立高校の備品であるハンマー投げのハンマーが「公の営造物」に該当するかが争点のひとつとなったものがあります(名古屋地判平成31年4月18日)。
この裁判は、公立高校の課外活動中、部活動中の部員が投てき動作に入ったところ、ハンマー投げのハンマーのワイヤーが破断、ヘッド部分が他の部員にあたり、負傷したという事故に関する損害賠償請求事件です。

この裁判では、ハンマーに国家賠償法2条1項の瑕疵があったことも主張され、ハンマーが公の営造物に該当するかが争点のひとつとなりました。

この点について、被告は、

本件ハンマーはいずれかの場所に設置するものではないから,本件ハンマーは,「公の営造物」ではない。

名古屋地判平成31年4月18日

とハンマーは営造物に該当しないと主張しています。
しかし、裁判所は、

公の営造物とは,国又は公共団体により直接に公の目的に供用される有体物又は物的設備をいうところ,本件ハンマーは,本件高校が・・・部の練習のために購入して・・・部の部員が部活動において使用し,部室で保管されていたものであるから・・・公共団体である被告により・・・高校の部活動という公の目的に供用されたと認められ,公の営造物に当たる。被告は,いずれかの場所に設置していないから公の営造物ではないと主張する。確かに,国家賠償法2条1項は公の営造物の設置又は管理に瑕疵があることを要件とする規定であるから,公の営造物が設置又は管理の対象となる物であることは必要であるが,設置又は管理の対象となる物であれば足り,必ずしも設置がされなければならないものではない。したがって,被告の主張は採用できない。

名古屋地判平成31年4月18日

として、この事故原因のハンマーも公の営造物に該当するとしています。

動産を公の営造物と認定したその他の裁判例

新幹線車両を営造物と認定した裁判例

動産が公の営造物に該当し得ることを明確に述べている裁判例としては、名古屋地判昭和55年9月11日があります。
この裁判の判決では、

国賠法二条一項の公の営造物とは、国又は公共団体により公の目的に供される有体物ないし物的設備をいい、新幹線についてみれば、基盤、軌道、架線、駅舎その他の付属設備がこれに該当することは明らかであつて、被告もこれを争つていない。被告は、新幹線の車両は動産であつて公の営造物にあたらないと主張するが、国賠法二条一項には、「道路、河川その他公の営造物」と規定されていて、民法七一七条と異り土地の工作物に限定する旨の文言はないし、他の実定法上の営造物の概念からも、不動産に限定する趣旨であることを窺うことはできないのであり、営造物に動産が含まれることは通説的見解である。

名古屋地判昭和55年9月11日

として動産が国家賠償法2条1項の「営造物」に含まれることを通説的見解と断定しています。その上で、動産である新幹線車両を公の営造物と認定しています。

尚、この判決は、国鉄民営化前の日本国有鉄道時代のものなので、新幹線に関しても国家賠償法が問題となっています。

この判決では、民法717条1項では、

土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。(注:民法は平成時代に現代語化がされていることから、上記判決の時代では、条文はこれと異なり文語体でした。)

民法717条1項

と「土地の工作物」という用語が条文に挿入されており、文言上、瑕疵の対象物が土地の工作物に限定されているのに対し、上記に引用しましたように、国家賠償法2条1項の条文には「土地の工作物」という用語が挿入されていないことも、国家賠償法2条1項の「営造物」は不動産に限定されず、動産も対象となることの根拠のひとつとして挙げられています。

ただし、新幹線は動産といえども持ち運びできるようなものではなく、典型的な動産としてイメージされるものとは少し異なります。

拳銃と電動カンナを営造物と認定した裁判例

しかし、大阪高判昭和62年11月27日では、物理的に持ち運びが容易な動産についても、公の営造物に該当すると認定しています。
この裁判の判決では、

国家賠償法二条の「営造物の設置又は管理の瑕疵」とは営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいうべきところ、本件において、けん銃保管のための保管箱が右営造物に該るものと解されるのみならず、本件けん銃はそれ自体動産であるが、本来的に人身等を殺傷する用に供されるために作製されたいわゆる性質上の兇器であり、しかもその威力は強大で、一旦使用されると相手に容易に致命傷を与える高度の危険性を持つ武器であるから、これもまた右営造物に該ると解される。

大阪高判昭和62年11月27日

として、動産である警察の拳銃も公の営造物に該当すると認定しています。

学説では、条文の文言上からして動産が公の営造物に含まれるとするのは無理があり、動産の管理に関しては、国家賠償法1条1項で対処すればよいとの見解もあるようです。
しかし、上記のように、国家賠償法2条1項は無過失責任と考えられていますので、故意または過失を要求する1条1項より被害者救済に資する場合もあると考えられます。

このことも関係しているのでしょうか、動産を公の営造物と認定した判例・裁判例は少なくありません。

広島地判昭和42年8月30日では、公立中学の電気かんなについても、

動産である本件電気かんなが国家賠償法二条にいう営造物を構成するものか否かについては、これを肯定すべきものと考える。本条が民法七一七条の適用範囲の空白を埋めようという動機の下にその立法作業が開始されたという経過は、単に立法の動機であるに止まり営造物という動産不動産および人的設備を含む法律概念から本条に限り動産を除外しなければならぬ合理的事由は存しないからである

広島地判昭和42年8月30日

と営造物に該当するとしています。

ハンマーの瑕疵も国家賠償法2条1項の損害賠償請求の対象となり得ること

名古屋地判平成31年4月18日について

このように、警察の拳銃のみならず、備品の電動かんなのような動産も営造物に該当するとしている以上、名古屋地判平成31年4月18日において、ハンマー投げのハンマーが営造物として認定されたことも不思議ではありません。

尚、この裁判の判決では、ハンマーの設置又は管理の瑕疵については、

原告は,本件ハンマーのワイヤーが切れた原因等については具体的な主張はしておらず・・・ワイヤーが切れたことのみを根拠に,本件ハンマーは通常有すべき安全性を欠いていると主張する(が)・・・ハンマー投げにおいては,競技中でもワイヤーが破断することを前提としたルールが規定されており・・・ワイヤーが破断することを完全に防止することは困難なもので・・・ハンマーのワイヤーが破断したからといって,そのことのみから本件ハンマーが通常有すべき安全性を欠いていたとは認められない

名古屋地判平成31年4月18日

と否定し、ハンマーの瑕疵による国家賠償法2条1項の責任を認めていません。

ただし、練習場の防護ネットの設置状態および待機場所の設け方が不適切であったとし、練習場は「ハンマー投げの練習場として通常有すべき安全性を欠いていた」として、練習場に設置又は管理の瑕疵を認定しています。

更に、防護ネットの設置又は待機場所の指示に関して、部の顧問教員の注意義務違反を認定し、高校の設置者である地方公共団体に国家賠償法1条1項の責任を認めています。

ハンマーの瑕疵を理由とする国家賠償法2条1項請求の可能性

このように、ハンマーも公の営造物と認定されます。
そこで、具体的事情から管理者の瑕疵を主張・証明し得る事案であれば、管理者に対し、国家賠償法2条1項に基づく損害賠償請求もなし得ると考えられます。

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