作家死後の小説の著作権の相続および著作物の保護について

死後の著作物の扱いに関する疑問

作家の卵と新人作家の著作物に関する不安

Aさんは、若いころから趣味で書き続けてきた推理小説で、先日とある賞の大賞を受賞し、初めて単行本が出版されることとなりました。
Aさんの家族は皆亡くなっており、法定相続人もいないことから、「自分が死んだら大賞受賞作の著作権はどうなるのだろう」と早くも気になっています。

Bさんは、最近書き始めた山岳小説が時流に乗り、単行本として出版されることとなりました。
Bさんには、相続人として妻がいますが、自分の死後、自分の書いた本を勝手に改ざんされたりしないか、早くも気になり始めています。

小説の著作権の相続と著作物の保護について

下記のように、著作権も不動産、預貯金などの財産と同様に、相続の対象となります。
また、著作者人格権も死後においても一定範囲で保護されます。
しかし、相続する人がいない場合、一般的な遺産と異なり、その時点で著作権は消滅することとなります。

そこで、相続人のいないAさんの大賞受賞作の著作権は、原則として、Aさんが死亡すると消滅することとなります。

一方、Bさんの死後、Bさんの山岳小説が改ざんされそうになった場合、Bさんの妻らが対抗措置をとって守ることとなります。

作家の小説に対する権利

著作物に関する権利について

作家の小説のような「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」は法的には著作物といいます(著作権法2条1項1号参照)。
そして、作家のように、「著作物を創作する者」を著作者といいます(著作権法2条1項2号参照)。

この著作物に関する権利に関しては、主に著作権法に規定されており、著作権と著作者人格権が定められています。

まず、著作権とは、著作者が著作物を排他的に利用する財産的権利のことです。

一方、著作者人格権とは著作権以外に著作者が有する

  • 未公表の著作物を公衆に提供したり提示する権利(公表権)
  • 著作物に著作者名を表示したり表示しない権利(氏名表示権)
  • 著作物、その題号の同一性を保持する権利(同一性保持権)

などのことです。

作家の著作権

まず、作家が自らの書いた小説に対し有する著作権については、著作権法17条に、

(著作者の権利)
第十七条 著作者は、次条第一項、第十九条第一項及び第二十条第一項に規定する権利(以下「著作者人格権」という。)並びに第二十一条から第二十八条までに規定する権利(以下「著作権」という。)を享有する。
2 著作者人格権及び著作権の享有には、いかなる方式の履行をも要しない。

著作権法17条

と規定されています。

この著作権法17条1項には、上記で触れました著作者人格権と著作権が規定されています。

著作権の相続について

著作権の相続と存続期間

Aさんが気になっている著作権は、著作物の財産的な権利であることから、著作者の死後、金融資産、不動産等の一般的な財産と同様に相続財産となります。
したがって、特に遺言で指定がなされていなければ、法定相続人が相続するのが原則となります。

ただし、一般的な財産と異なり、著作権は、原則として著作者の死後70年で消滅することとなります(著作権法51条)。

それでは、Aさんのように法定相続人がいない人が、遺言も残さなかったような場合、残された著作権はどうなるのでしょうか。

上述のように、著作権も相続財産となりますので、一般的な相続財産と同様に、特別縁故者もいなければ、民法959条により処理されることとなりそうです。
民法959条は、残余財産の帰属として、「・・・処分されなかった相続財産は、国庫に帰属する・・・」と規定していることから、著作権も国庫に帰属するように思われます。

しかし、著作権法62条では、

(相続人の不存在の場合等における著作権の消滅)
第六十二条 著作権は、次に掲げる場合には、消滅する。
一 著作権者が死亡した場合において、その著作権が民法(明治二十九年法律第八十九号)第九百五十九条(残余財産の国庫への帰属)の規定により国庫に帰属すべきこととなるとき。
(以下省略)

著作権法62条

と規定されています。

そこで、著作権法62条1項1号により、相続人、特別縁故者もいない場合、著作権は国庫に帰属することなく消滅することとなります。

Aさんのケースの扱い

したがいまして、Aさんの場合も、遺言を残さず、特別縁故者がいなければ、Aさんが大賞を受賞した推理小説の著作権は消滅することとなります。

著作者死後の著作者人格権について

同一性保持権について

上記のように、著作者の権利としては、著作権の他に著作者人格権があり、著作権法では18条1項に公表権、19条に氏名表示権、20条に同一性保持権を規定しています。

このうち、著作権法20条1項の同一性保持権は、

第二十条 著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。

著作権法20条1項

と規定されています。

Bさんが気にしているのは、この同一性保持権が自分の死後にどうなるかということです。

著作者人格権の一身専属性と著作者死後の保護

しかし、著作者人格権に関しては、著作権法59条で、

第五十九条 著作者人格権は、著作者の一身に専属し、譲渡することができない。

著作権法59条

と規定されており、著作権と異なり、一身専属的なものとされています。
そこで、著作者が死亡すると、著作者人格権は消滅するのが原則とも考えられます。

しかし、著作権法60条では、

第六十条 著作物を公衆に提供し、又は提示する者は、その著作物の著作者が存しなくなつた後においても、著作者が存しているとしたならばその著作者人格権の侵害となるべき行為をしてはならない。ただし、その行為の性質及び程度、社会的事情の変動その他によりその行為が当該著作者の意を害しないと認められる場合は、この限りでない。

著作権法60条

と規定されており、著作者の死後も一定の保護が図られるものとされています。

その保護に関しまして、著作権法116条では「著作者又は実演家の死後における人格的利益の保護のための措置」として、死亡した著作者の配偶者、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹が侵害行為の差止請求、名誉回復措置を取ることができるとしています。

Bさんのケースの小説の保護

したがいまして、Bさんの死後、誰かがBさんの山岳小説を改ざんしようとした場合、Bさんの妻らがその改変行為への対抗措置をとってBさんの山岳小説を守ることとなります。

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