年休取得申請を直前または当日にしても年休を取得できるのでしょうか?

※作成時の法律、判例に基づく記事であり、作成後の法改正、判例変更等は反映しておりません。
この記事で扱っている問題

従業員が、年休取得申請を年休取得日の直前あるいは当日におこなった場合でも、会社はこの申請を認めなければならないのでしょうか。

年休取得申請の時期的限界の問題について、会社の時季変更権との関係、および年休申請時期に関する就業規則の有効性に触れながら解説します。

年休取得申請時期の問題

直前、当日の年休取得申請の問題

Aさんは、明日漸く秋雨前線が後退しそうなので、急に明日休みを取ろうと思い立ち、翌日の年休取得申請をしました。
そうしたところ、会社から、「年休取得は認めない」と言われました。
Aさんの会社は2日前までに年休取得申請するよう社内規程に定められています。

Bさんは、朝起きたら体調が優れませんでした。
次週からプロジェクトが忙しくなる見込みなので、大事をとって体調を整えた方が良いと考え、年休を当日の朝、担当者にメールで申請しました。
そうしたところ、担当者から「年休の取得は認められません。欠勤扱いとなります。」と返信がありました。
Bさんの会社では、年休取得の申請期限については何も規程はありません。

AさんとBさんは会社に対し何もいうことは出来ないのでしょうか。

年休取得申請の時期的限界

下記の記事でも年休取得申請時期について扱いましたが、Aさん、Bさんのように、年休を取得する日の直前あるいは当日に年休取得申請した場合、会社はその申請を認めなければならないのでしょうか。

上記の記事でも年休申請時期に関する社内規定に触れていますが、Aさんの場合は、年休の申請時期が社内規程で定められていることから、会社が年休取得を認めないのもやむを得ないと考えられます。
一方、下記のように、Bさんの場合は、申請とおりに年休を取得した場合、会社に何らかの不都合が生じ得るかにより結論は変わってくるものと考えられます。

年休取得申請時期に関する社内規程の有効性

下記の記事でも述べましたが、従業員は年休の取得時期について時季指定権を有しており、いつ年休を取得するかを従業員が決めるのが原則です。
年休の取得理由も自由で、その理由を会社に伝える義務もありません。

しかし、会社にも従業員の年休取得時期の変更を求める時季変更権があります。
この時季変更権は、当日の朝に年休取得の連絡を受けても行使できない場合が多いことから、当日の年休取得申請は認められなくともやむを得ません。
このことは、最初に紹介した記事で扱っています。

ただ、Aさんの会社では、取得希望日の2日前までに年休取得申請するよう義務付けています。
このように、2日前までの申請を義務付けることは、従業員の時季指定権を不当に制限することになるとも思われます。
このような内容の社内規程は有効なのでしょうか。

この点につきましては、大阪高判昭和53年1月31日において、

年次有給休暇に関する協約に関して確認された覚書によると、「交替服務者が休暇を請求する場合は、原則として前前日の勤務終了時までに請求するものとする。」との定めがある(が、)・・・右の定めは、控訴人に時季変更権を行使するか否かを判断するのに要する時間的余裕を与えると同時に、職員の服務時間割を事前に変更して代替要員を確保するのを容易にすることにより、時季変更権の行使をなるべく不要ならしめようとする配慮に出たものと認められ、年休の時季を指定すべき時期についての制限として合理的なものであるから、法三九条に違反するものではなく、有効なものというべき

大阪高判昭和53年1月31日

として2日前までに年休取得申出をするよう定めた労働協約を有効としています。

この裁判例、およびAさんの年休取得申請は相当程度前におこなうことも可能であったことなどからしますと、Aさんの年休取得が認められないのもやむを得ないものと思われます。

年休取得申請と時季変更権行使について

一方、Bさんの場合は、年休申請時期に関する社内規程が存在していません。
しかし、その場合でも、労働基準法39条5項から、会社の「事業の正常な運営を妨げる場合」には、会社の時季変更権の行使が認められます。
そこで、Bさんの場合、この「事業の正常な運営を妨げる場合」がどのような場合を指すのかが問題となり得ます。

この点につきましては、上記で引用した大阪高判昭和53年1月31日の事件の1審にあたる大阪地判昭和51年3月24日において、

法三九条三項但書にいう「事業の正常な運営を妨げる」かどうかは、当該労働者の所属する事業場を基準として、事業の規模、内容、当該労働者の担当する作業の内容、性質、作業の繁閑、代行者の配置の難易、労働慣行等諸般の事情を考慮して客観的に判断すべきである

大阪地判昭和51年3月24日

と判示されています。

この裁判例からしますと、Bさんがその日に休むと会社の「事業の正常な運営を妨げる」ような事情があれば、当日朝の年休取得を認めないという会社の判断も正当だといえます。
しかし、そのような事情がなければBさんの年休取得は認められ、欠勤扱いは不当だといえそうです。

直前、当日の年休取得申請の制限について

上記のように、会社には時季変更権が認められていることから、従業員の年休取得申請の申請時期に一定の制限を設けることは可能であると考えられます。
したがって、合理的な範囲内の申請時期の制限を就業規則などで規定することも可能と考えられます。
その場合、規程によっては、直前あるいは当日の申請は認められないこととなります。
ただし、申請時期をあまりに早い時期とすることは、従業員の年休取得に対する時季指定権を侵害する違法なものとなり得ます。

一方、年休取得時期を制限する社内規定が設けられていない場合においても、申請された日に従業員が年休を取得することにより「事業の正常な運営を妨げる」ような場合には、会社は、申請された日の年休取得を認めないことも可能となります。

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