被相続人の借金について相続人はどのような義務を負うのでしょうか

※作成時の法律、判例に基づく記事であり、作成後の法改正、判例変更等は反映しておりません。

借入金を残して亡くなった人の相続人は返済義務を負うのでしょうか

事業資金の借入金を残して亡くなった人の配偶者の返済義務の問題

AさんとBさんの夫婦は長らく共働きで会社勤めをしていましたが、子が一人暮らしをはじめたのを機に、以前からの夢であった甘味店を銀行から500万円借り入れ開業しました。
しかし、甘味店の開店から半年も経たないうちに、Aさんは遺言も残さずに突然亡くなってしまいました。
銀行からの借入金の元本返済は未だ始まっておらず、500万円全額が未弁済のまま残っている状態です。
AさんとBさん夫婦に子は1人で、法定相続人はBさんとその子となります。
Bさんは借入金の返済義務を負うことになるのでしょうか。

借入金の性質、保証の状況により返済義務の範囲は異なります

事業借入が連帯債務の場合は全額の返済義務があります

このような夫婦で営んでいた事業のための借入が、AさんとBさんの連帯債務となっていたのであれば、下記のように、Bさんは全額の返済義務を負うのが原則です。

被相続人の単独債務であれば相続割合に応じて返済義務を負うのが原則です

一方、Aさんの単独債務であれば、相続放棄しなければ、Bさんと子が半額ずつ返済義務を負うこととなります。

単独債務でも保証人になっていれば全額の保証義務を負います

単独債務でもBさんが保証人となっていれば、Bさんは全額の保証義務を負うこととなります。

借入金が連帯債務の場合には全額の返済債務があります

借入金がAさんとBさんの連帯債務であった場合、民法436条で、

債務の目的がその性質上可分である場合において、法令の規定又は当事者の意思表示によって数人が連帯して債務を負担するときは、債権者は、その連帯債務者の一人に対し、又は同時に若しくは順次に全ての連帯債務者に対し、全部又は一部の履行を請求することができる。

民法436条

とされていることから、Bさんは借入金500万円全額の返済義務を負うことになります。

単独債務であったときの返済義務は事情により異なります

相続人は借金も相続することとなります

民法896条は相続の効力として、

相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。

民法896条

と定めており、相続人は、相続財産のみでなく、被相続人の負っていた債務も相続します。
そこで、借入金がAさんの単独債務であった場合、相続人であるBさんと子は借入金を相続することとなり、その返済義務を負うこととなります。

しかし、下記の記事でみましたように、相続人は相続放棄することにより、債務の相続を免れることが出来ます。
また、相続放棄しなかった場合は、法定相続割合に従って相続債務を承継することも下記の記事で述べた通りです

遺産分割協議後も債権者に対しては相続割合での返済義務が残ります

それでは、Bさんと子が遺産分割協議を経て、Aさんの借入金の全額を子が相続すると決めた場合、Bさんは、返済義務を負わずに済むのでしょうか。

この点に関連し、遺言で相続分の指定があった事案において、最高裁判所は( 最判平成21年3月24日)、

遺言による相続債務についての相続分の指定は,相続債務の債権者(以下「相続債権者」という。)の関与なくされたものであるから,相続債権者に対してはその効力が及ばないものと解するのが相当であり,各相続人は,相続債権者から法定相続分に従った相続債務の履行を求められたときには,これに応じなければならず,指定相続分に応じて相続債務を承継したことを主張することはできないが,相続債権者の方から相続債務についての相続分の指定の効力を承認し,各相続人に対し,指定相続分に応じた相続債務の履行を請求することは妨げられない

最判平成21年3月24日

と判示しています。
この判決の趣旨は、遺産分割協議等において相続人間で相続債務の負担割合を法定相続分と異なる割合と決めた場合にも当てはまると考えられています。
そこで、被相続人に対して金銭の貸付をおこなっていた金融機関などの相続債務の債権者(相続債権者)に対しては、法定相続分と異なる相続債務の負担割合を、相続人から主張することは出来ないとされています。
尚、債権者が、異なる相続割合に同意している場合は、法定相続分と異なる割合での返済も可能となります。

このように、借入金がAさんの単独債務である場合、Bさんは、借入金残金の法定相続割合2分の1にあたる250万円の返済義務を負うのが原則となります。

相続人が保証人であった場合は全額の返済義務を負うのが原則です

Aさんの残した事業借入が単独債務であった場合でも、BさんがAさんの(連帯)保証人となっていた場合は、民法446条などで500万円の保証債務を負うこととなります。

団信などで相続債務が消滅する場合があり確認が必要です

尚、Aさんが、事業資金借入時に、団体信用生命保険(団信)などに加入していたような場合、支払保険金が事業借入の残債務に充当されることとなります。
そのような場合、事業借入の債務(相続債務)自体が消滅し、Bさんは支払い義務を免れ得ることから、保険加入に関して確認することが必要です。

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