賃金の支給時期、支払方法、前払いについて~賃金に関する法律の規定

※作成時の法律、判例に基づく記事であり、作成後の法改正、判例変更等は反映しておりません。
ここで扱っている問題

会社が年俸制を採用した場合、給与の支給時期はどのように変わるのでしょうか、給与の支給日について毎月第3木曜日といった決め方はできるのでしょうか、また給与の前払いは社内規程に前払い制度がなくても会社に請求できるものなのでしょうか。

ここでは、賃金の支給時期、支払方法、賃金の前払いに関する法律の規定について解説します。

給与支給に関する疑問について

給与に関する3つの悩み

AさんはX社で正社員(以下、期間の定めのない労働契約を会社との間で締結している者を「正社員」といいます。)として働いていますが、今年からX社が年俸制を導入したことから、1年分後払いされると大変だと悩んでいます。

Bさんは、知人が新たに立ち上げたY社で正社員として働くこととなりましたが、給与支給日は毎月第3木曜日といわれました。
Bさんは、何度か転職していますが、このような給料日の決め方をしていた会社はこれまでなかったことから、不思議に感じています。
また、給与が支給される日付が、月によって変わることになることから、カードの支払日と給料支給日の関係が気になっています。

Cさんは、Z社で正社員として勤務していますが、思わぬ災害で家の一部が損壊し、早急に修繕しなければならなくなりました。
よくドラマに出てくるような給与の前払いを会社に頼めるものなのか思い悩んでいます。

Aさん、Bさん、Cさんの悩みをどのように考えればよいのでしょうか。

給与の支給時期に関する法律の規定について

Aさんらの悩みは、主に賃金の支給時期の問題といえますが、下記のようなことから、賃金は、毎月一定の期日に1回以上支払わなければならないとされています。
そこで、Aさんのケースでも年俸であるから年1回で支払うというわけにはいきません。
また、Bさんのケースでは、毎月一定の日に支払うことにはなりません。
そこで、このような支給日の取り決めは許されません。
Cさんのような賃金の前払いは、下記のように、一定の範囲で法律上、義務付けられています。

賃金支給に関する法律の規定

毎月一回以上の支払いが必要です

賃金の支給方法に関しては、労働基準法24条2項において、

賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第八十九条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。

労働基準法24条2項

と規定されており、同項の「厚生労働省令」として、労働基準法施行規則8条では、

第八条 法第二十四条第二項但書の規定による臨時に支払われる賃金、賞与に準ずるものは次に掲げるものとする。
一 一箇月を超える期間の出勤成績によつて支給される精勤手当
二 一箇月を超える一定期間の継続勤務に対して支給される勤続手当
三 一箇月を超える期間にわたる事由によつて算定される奨励加給又は能率手当

労働基準法施行規則8条

と規定されています。
そこで、上記の1号から3号に該当するもの以外の賃金は、労働基準法24条2項により、「毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わ」れることとなります。

これらの規定により、会社は、従業員に対し、毎月1回以上賃金を支払う義務を負います
このことは、年俸制でも異ならないと考えられており、年俸額を12等分するなどして毎月支払う必要があるとされています

一定の期日を定めた支払いが必要です

上記に引用した労働基準法24条2項において、賃金は「一定の期日を定めて」支払うこととなっています。

毎月25日といった決め方は、一定の期日を定めたことになりますのでもちろん問題ありません。
また、毎月月末という決め方も問題がありません。

尚、該当日が休日にあたる場合、支給日を前営業日あるいは後営業日とすることは、同条の規定に反するものではありません。

しかし、Bさんのケースのように、毎月第3木曜日といった決め方をしますと、月によっては実際の支給の日がかなり変動することになります。
そこで、このような支給日の決め方では、「一定の期日を定めて」とはいえないと考えられています。

事情によっては賃金の前払いが必要です

賃金の前払いについては、労働基準法25条において、

使用者は、労働者が出産、疾病、災害その他厚生労働省令で定める非常の場合の費用に充てるために請求する場合においては、支払期日前であつても、既往の労働に対する賃金を支払わなければならない。

労働基準法25条

と規定されています。
そして、同条の「厚生労働省令」として、労働基準法施行規則9条では、

第九条 法第二十五条に規定する非常の場合は、次に掲げるものとする。
一 労働者の収入によつて生計を維持する者が出産し、疾病にかかり、又は災害をうけた場合
二 労働者又はその収入によつて生計を維持する者が結婚し、又は死亡した場合
三 労働者又はその収入によつて生計を維持する者がやむを得ない事由により一週間以上にわたつて帰郷する場合

労働基準法施行規則9条

と規定しています。
そこで、同条の1号~3号に定められている

  • その給与で生計を維持している人が出産、疾病、被災した場合
  • 従業員本人またはその給与で生計を維持している人が結婚をしたり、死亡した場合
  • 従業員本人またはその給与で生計を維持している人がやむを得ない事情で1週間以上帰省する場合

においては、労働基準法25条による賃金の前払いを会社に請求することが出来ることとなります。

Cさんの場合は、1号に該当すると考えられることから、前払いを受けることが出来そうです。
しかし、労働基準法25条の適用により前払いを受けることができるのは、「既往の労働に対する賃金」に限定されていることから、既に働いた分の賃金を通常の給料支給日より早く支払ってもらうことが出来るということで、同条から、将来働く分の賃金を前払いする義務を会社が負うことになるわけではありません

Aさんらの悩みと賃金の支給時期、方法

以上のことから、Aさんの場合、年俸を分割した金額を毎月一定の日に受け取ることができることとなります。
したがって、Aさんの悩みは杞憂ということになります。

一方、Bさんのケースでは、Y社の給料日の取り決めは労働基準法24条2項に違反することとなります。
そこで、Bさんは、会社に対し、給料日の特定方法を変えて欲しいと要求することが可能です。

Cさんは、会社に対し、未払い分の賃金を給料日前に支払うよう求めることが可能です。
しかし、将来の労働分まで前払いしてもらえるかは、会社の規定によるものと考えられます。

カテゴリー別ブログ記事

最近の記事
人気の記事
おすすめ記事
  1. 養子の死後発生した養親の子の相続において養子の子は代襲相続するのでしょうか

  2. 御嶽山噴火事故控訴審判決における国の違法性に関する判断について

  3. 特別寄与料の負担割合は遺留分侵害額請求権行使により変化するのでしょうか

  4. 職種限定合意が認められる場合も職種変更を伴う配置転換をおこないうるのでしょうか

  5. 師弟関係のハラスメント認定とマスコミへの情報提供の違法性について

  1. 法律上の期間、期限など日に関すること

  2. 職務専念義務違反とは?~義務の内容、根拠、問題となるケースなど

  3. 公序良俗違反とは?~その意味、具体例、法的効果と金銭返還請求など

  4. 議会の議決なく締結した契約に対する地方公共団体の長の損害賠償責任

  5. 信義則違反とは?~信義誠実の原則、その性質、効果、適用事例など

  1. 山の頂、稜線が県・市町村の境界と一致しない例と理由、帰属の判断基準

  2. 公序良俗違反とは?~その意味、具体例、法的効果と金銭返還請求など

  3. スキー場立入禁止区域で発生した雪崩事故の経営・管理会社、同行者の責任

  4. スキー場の雪崩事故と国賠法の瑕疵認定~判断枠組み、予見可能性の影響等

  5. 配置転換は拒否できるのでしょうか?

関連記事