新型コロナウイルスと賃料不払い

賃料不払いと賃貸借契約終了

賃料不払いと賃貸借契約解除

賃貸物件に居住している場合、賃料支払が1回でも遅延すると、賃料不払いという賃借人(居住者)の債務不履行(契約の基づく賃料支払義務を果たさないという債務不履行)により、賃貸借契約の解除権が発生し、賃貸人がその解除権を行使して賃貸借契約を終了させることにより、賃借人が賃貸借契約に基づいて有していた建物を使用する(居住する)権利が契約の終了より消滅し、賃借人は賃貸人の所有する建物に居住出来なくなり、立ち退かなければならなく訳ではありません。
建物賃貸借契約のような長期間継続する契約に関しては、些少の債務不履行により、直ぐに契約の解除権が発生し、契約を終了できるというものではありません。
一般的には、賃貸借契約の当事者である賃貸人と賃借人との間の信頼関係が破壊されたといい得る程度に賃料不払い等の債務不履行(契約違反行為)があった場合に初めて、解除権が発生し、賃貸人は賃貸借契約を解除し、賃借人に対して建物の立ち退きを求めることが出来るとされています。
そこで、賃料の不払いが生じた場合、その賃料不払いが信頼関係を破壊する程に強度のものと評価されるのかが、問題となり得ます。

問題の所在

既に新型コロナウイルス感染症による国内経済への影響も2年弱続いており、その間には、失業、収入減などを原因とする家計の悪化により、家賃を支払えなくなった賃借人も少なくないかと思われます。
このような場合でも、一定期間の賃料が支払えなければ、法的に信頼関係が破壊されたと評価されるのでしょうか。

新型コロナウイルスの関連した裁判例

裁判所の判断

この点が争点となった裁判として、賃料不払いにより賃貸借契約を解除したとして賃貸人が賃借人に対して賃貸物件の明渡しを求めた裁判(東京地判令和3年4月13日)があります。
この裁判では、被告(賃借人)の

被告は,新型コロナウイルスの影響により,令和2年5月分から同年7月分までの本件賃料の支払が遅れたのであり,原告と被告の間の信頼関係が破壊されているとはいえない

東京地判令和3年4月13日

との主張に対し、裁判所は、

前記前提事実によると,本件解除1の解除の意思表示の後に,令和2年5月分から同年7月分の本件賃料が支払われたことが認められる。
令和2年5月分から同年7月分の本件賃料の支払時期において,令和2年4月7日から新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言が発令されたこと(公知の事実)を踏まえると,原告と被告の間の信頼関係が破壊されたと認められない特段の事情があるといえ,本件解除1により,本件賃貸借契約が終了したとは認められない。

東京地判令和3年4月13日

と判示しています。
しかし、賃借人には、上記の3カ月分以外にも賃料不払い期間があり、裁判所は、

前記前提事実によると,被告は,令和2年12月分及び令和3年1月分の本件賃料を支払っていないことが認められる。
そして,①口頭弁論終結時においても,被告に,令和2年12月分及び令和3年1月分の本件賃料の具体的な支払の見込みがあるとは認められないこと,②令和2年5月分から同年11月分の本件賃料の支払が遅延したことを踏まえると,本件解除3の時点においては,被告が本件賃料を期限内に継続的に支払う資力があったとは認められないといえ,原告と被告の間の信頼関係は破壊されているといわざるを得ない。
したがって,本件賃貸借契約は,本件解除3により解除され,同契約は終了したといえる。

東京地判令和3年4月13日

新型コロナ市中蔓延時の信頼関係の破壊

として、賃貸人の請求を認容しています。
公表されている範囲では、口頭弁論終結日は明確ではありませんが、判決文の内容などから、口頭弁論期日の終結日は令和3年の3月下旬~4月上旬のようです。そして、同期間において、東京では、一時的に緊急事態宣言は解除された時期はあったものの、収束する状況ではありませんでした。
このような状況下においても、やはり、賃料不払いが一定期間継続すると、信頼関係が破壊されたと評価される可能性はあることが分かります。

判決の位置付け

この裁判は、新型コロナウイルスの市中感染等の特殊事情下での債務不履行が、継続的契約にどのような影響を与えるかという点でも参考になる判例かと思われます。

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