雇止めにより受けた精神的苦痛に対し慰謝料を請求できるのでしょうか

※作成時の法律、判例に基づく記事であり、作成後の法改正、判例変更等は反映しておりません。

雇止めされた際に何を請求できるのでしょうか

有期契約社員が雇用契約の継続を会社から拒否され、精神的苦痛を受けた場合、その精神的苦痛に対して慰謝料請求をおこなうことは出来るのでしょうか。

雇止めが問題となる紛争が訴訟に至った場合、
①社員として雇用契約上の地位にあることの確認を求める請求
②未払い賃金の支払いの請求
をあわせておこなうことが多いと思われます。

しかし、これらの請求と共に、雇止めにより生じた精神的苦痛に対する慰謝料を請求することがあります。

このような訴訟が提起された場合、雇止めが有効であると判断されれば、①と通常は②の請求も棄却されることとなります。同時に③も棄却されるのが一般的です。
しかし、雇止めに際し、会社が従業員に対しておこなった行為が、パワーハラスメント等として、違法行為と評価されるような場合、③のみ認容される余地もあり得ます。

一方、雇止めが無効と判断されれば、一般的には①と②は認容されることとなります。
しかし、その場合、③が必ずしも認容される訳ではありません。

雇止めが無効と評価された場合、どのような事情があれば、③慰謝料の請求まで認容されるのでしょうか。
この点について、裁判例をみながら考えてみます。

慰謝料請求のみおこなった裁判例

まず、③の慰謝料請求が認められた裁判としては、東京地判令和3年5月26日があります。
この裁判は、有期雇用契約の職員が過員を理由に雇止めされた事件です。
この事件の裁判において、裁判所は、

本件雇止めは無効であるところ,無効な雇止めが直ちに不法行為に該当するとはいえないが,本件雇止めについては・・・契約更新に対する合理的期待は高かったというべきで・・・雇止めの態様を見ても,被告は,原告に本件雇止めの理由として・・・過員という明らかに合理性のない理由を告げた後,原告に書面の交付を求められるや,雇止めの理由について「事業団の運営事業の経営状況により判断する。」という本件規則上の根拠条文を掲記するのみで具体的な理由が記載されていない文書を交付するという不誠実な対応に終始して(おり)・・・本件雇止めは不法行為に該当するというべきで・・・相当期間被告に貢献してきた原告が本件雇止めにより精神的苦痛を被ったことは明らかであり,原告が,本件雇止めの無効及び雇用継続を前提とする賃金請求や,逸失利益として賃金相当額の損害賠償請求を行っていないという事情に照らすと,本件においては精神的苦痛に対する慰謝料の支払を命ずるのが相当

東京地判令和3年5月26日

と判示しています。

この裁判では、原告は、上記の②の未払賃金の請求をおこなっていないことから、未払い賃金の代わりに慰謝料の請求が認められたという側面もありそうです。
そうしますと、この裁判例は、雇止め事件の裁判の典型的な慰謝料請求とは異なるものであると考えることもできそうです。

慰謝料請求が棄却された裁判例

次に、③慰謝料請求が棄却された高松高判令和3年4月2日をみてみます。

この裁判は、特定プロジェクトの有期雇用職員の雇止めに関して争われた事件です。
この事件の裁判では、裁判所は、雇止めを無効としたものの、

・・・本件雇止め1は無効であるが・・不法行為を構成するほど違法性が強度であるとも認められない。なお、本件雇止め1が違法である点については、上記認定の第1審原告の賃金請求が認められることにより、その精神的苦痛は慰謝されるのが通常であり、本件において、上記の賃金の支払によっても償えない程度の特段の精神的苦痛が生じたとまでは認められないから、この点からも、慰謝料請求は理由がない。

高松高判令和3年4月2日

として、③慰謝料請求は棄却しています。

これは、下記の記事で扱った一般的な財産権侵害に関する裁判の場合と同様、財産的な損害が回復されると、精神的損害も回復されるのが通常であるという考えを前提としています。
この前提をもとに、財産的損害の回復によっても回復されない程の精神的苦痛が生じていたような場合にのみ、慰謝料請求が認められるとするものといえます。

慰謝料請求が認められた裁判例

この慰謝料請求が棄却された事件に対し、東京地判令和3年3月19日では、③慰謝料請求も認めています。

この裁判は、有期雇用の教員の雇止めに関し、①および②に関する請求とともに、③慰謝料の請求がなされた事件です。
この事件で、裁判所は、

・・・日付け訓告書の措置,・・・日付け訓告書の措置,本件労働契約終了通知及び本件雇止めは,一連の行為であり,いずれも有効なものとはいえない・・・結果,原告については雇用契約上の権利を有する地位にあることが肯定されるとともに,本件雇止め時以降の賃金支払請求権の存在が認められる。他方で,被告ないし被告理事長の行為により,原告には,その財産的利益を得られてもなお償うことのできない精神的苦痛が生じたと認めるのが相当で・・・慰謝料額については・・・在籍年数,本件事案の性質・内容,本件訴訟に至る経過,本件審理の経過等諸般の事情に鑑みれば,50万円が相当

東京地判令和3年3月19日

と判示し、③慰謝料請求も認容しています。

慰謝料まで認められるのはどのような場合でしょうか

雇止めが無効と判断されるケースでは、②未払い賃金請求をせずに、③慰謝料請求のみおこなっていた場合があります。
また、②未払賃金請求をおこなっていた場合でも、雇止めとその先行行為、関連行為などに鑑み、未払い賃金の支払いを得ても償えない精神的苦痛が生じたと認められる場合、③慰謝料請求もあわせて認められ得ると考えられます。

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