特別縁故者に該当するのはどのような人なのでしょうか

特別縁故者の制度について

遺言なく、法定相続人がいない場合、遺産が特別縁故者に分与されることがあります

人が亡くなった場合、相続が開始しますが、遺言がなく、相続人もいないような場合、亡くなった人(以下、「被相続人」といいます。)の財産は、一種の法人とされ、家庭裁判所が選任する清算人により清算され(民法951条~958条参照(注:平成30年相続法(民法)改正後の条文、以下同様))ます。

しかし、その清算によっても財産が残った場合、被相続人と特別の関係にあった特別縁故者の申立てにより、分与され(民法958条の2参照)、それでも残った財産は、国庫に帰属することとなっていました(民法959条参照)。

特別縁故者につきましては、下記のブログ記事でも解説しておりますので、参考にしていただければ幸いです。

特別寄与者の制度が相続法改正により新設されました

平成30年の相続法改正前には、被相続人の生前に療養看護していた家族も戸籍上、法定相続人に該当しなければ、特別縁故者の制度によって、遺産の分与がなされ得るのみでした。
法定相続人が他に存在すれば、特別縁故者の制度は使えないことから、法定相続人がいたような場合、遺言が残っているなどの事情がなければ、遺産が一切配分されないという不都合がありました。

そこで、平成30年の相続法改正により、特別寄与者の制度が民法1050条にあらたに設けられました。これにより、特別寄与者に該当する者は、法定相続人が存在する場合でも、相続財産の実質的な配分を受けることができることとなりました。

特別縁故者の申立期間の制限が変わります

ここでは、特別寄与者の制度が設けられてから、あまり日が経っていないことから、現行の特別寄与者に該当する者についても、特別縁故者制度の中に取り込んで説明をします。

尚、特別縁故者の申立期間の制限を定めた現行の民法958条の3の2項は、令和3年の民法改正時に、相続財産の清算人の選任時の相続人に対する権利主張の公告の期間満了後3カ月以内と改正され、条文の位置も958条の2の2項に移動されることとなりました。この改正は、令和5年4月1日に施行されることとなりましたので、注意が必要です。

特別縁故者への分与は家庭裁判所の審判で決まります

特別縁故者に該当すると考える人は、家庭裁判所に対し、特別縁故者に対する相続財産分与審判を申し立てる必要があります。
申立てがありますと、裁判所は、相続財産清算人の意見も聞きながら、申立人に対し相続財産を分与するか、する場合は分与範囲(金額など)を特定して分与するかの審判を下します。

どのような人が特別縁故者に該当するのでしょうか

民法の規定をみてみます

それでは、どのような場合に、特別縁故者として遺産の分与が認められるのでしょうか。
まず、特別縁故者の根拠となる現行の958条の3第1項をみてみますと、

(特別縁故者に対する相続財産の分与)
第九百五十八条の三 前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。

民法958条の3第1項

と規定されていることから、特別縁故者として、遺産の一部の分与が認められるには、Ⓐ特別の縁故の存在とⒷ分与することが相当であることが必要と考えられます。

そして、Ⓐ特別の縁故が存在するものとしては、①被相続人と生計を同じくしていた者、②被相続人の療養看護に努めた者、③その他被相続人と特別の縁故があった者と規定されていることから、①と②は例示で、①、②以外の者でも特別縁故者と認定され得ると考えられます。

尚、特別縁故者には、自然人のみではなく、老人ホーム、市町村なども該当し得るとされています。

ところで、Ⓐ特別の縁故の存在は、個別具体的事情によって判断されますが、申し立てた者が多数である場合は、却下される可能性が高いと考えられています。そのような場合は、「特別」縁故者とは言い難いと判断し得るからのようです。
一方、どのような場合に、Ⓑ分与することが相当であるといい得るかは、裁判官が、個別具体的事情に基づいて判断するものといえます。

特別縁故者の審判に対する抗告事件をみてみます

このⒶの要件とⒷの要件の関係についてですが、知的能力が十分ではなかった被相続人(約4000万円の遺産)を、生前長年にわたり親子2代で雇用する等親身に面倒をみてきた人が特別縁故者に対する相続財産分与を申立てた審判に対する抗告事件(大阪高決平成31年2月15日)では、

被相続人の相続財産の相応の部分が抗告人による経済的援助を原資としていることに加え,被相続人の死亡前後を通じての抗告人の貢献の期間,程度に照らすならば,抗告人は,親兄弟にも匹敵するほどに,被相続人を経済的に支えた上,同人の安定した生活と死後縁故に尽くしたということができる。したがって,抗告人は,被相続人の療養看護に努め,被相続人と特別の縁故があった者(民法958条の3第1項)に該当するというべきである。
そして,上記の抗告人自身と被相続人との縁故の期間(被相続人42歳から86歳)や程度のほか,相続財産の形成過程や金額など一件記録に顕れた一切の事情を考慮すれば,被相続人の相続財産から抗告人に分与すべき額について,2000万円とするのが相当である。

大阪高決平成31年2月15日

と判断していることが参考になります。

この決定からも、前段のⒶ特別の縁故の存在とⒷ分与することが相当であることの判断は、かなりの部分が重なっていることが分かります。

申立てが一部の人のみ却下された審判をみてみます

次に、どのような場合に特別受益者と認められるのかについては、3人が特別縁故者対する相続財産分与を申立てたところ、申立人のうち、2名は分与が認められ、1名の申立てが却下された審判(大分家裁中津支部審判令和2年6月24日)が参考になります。

まず、遺産の一部の分与が認められたうちのひとりに関して、

申立人・・・は,遅くとも平成22年頃から,平成30年・・月に被相続人が死亡するまでの間,被相続人の施設入所の手続を行ったり,各施設や病院のキーパーソンないし緊急連絡先となり,各施設や病院と連絡を取り合ったり,これら施設や病院に赴き,被相続人と面会したりするなどしていたというのである。このような申立人・・・の説明は,各施設の入所記録や病院の診療録等の客観的な資料等により相当程度裏付けられている。
そうすると,申立人X2は,平成22年頃から平成30年・・・月に被相続人が死亡するまでの間,被相続人の物理的・精神的なサポートを継続したものといえる。
このことに加え,申立人・・・が,被相続人の永代供養の意向を有しているといった事情も踏まえると,申立人・・・は,被相続人と特別の縁故があった者(民法958条の3第1項)に当たるものと認めるのが相当

大分家裁中津支部審判令和2年6月24日

と判断しています。

一方、申立を棄却した人に関しては、その理由を、

被相続人ないしその家族の親交の内容,程度に関する申立人・・・の説明・・・については,申立人・・・と被相続人家族の写真が存在することからすれば,申立人・・・と被相続人ないしその家族の関係は悪いものではなかったとうかがわれる。しかし,それを超えて,被相続人と生計を同じくしていたとか,その療養監護に務めた等の事情は見当たらないし,それに匹敵するような特別の縁故があったと認めるだけの資料にも乏しい。結局,申立人・・・については,被相続人と特別の縁故があった者に当たるとは認められない。

大分家裁中津支部審判令和2年6月24日

としています。

この審判からしますと、特別受益者の申立てに関しては、具体的な「縁故」関係について、具体的証拠を示す必要があり、その「縁故」も世間一般でみられる「親切」「親交がある」という程度では足りないと言い得ます。

この審判からも、 特別縁故者の申立てをする際には、被相続人との生前の特別といい得る関係を示す具体的事実を示し、その具体的事実に関する証拠を用意することが重要 であることが分かります。

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