コロナ禍を理由とする解雇の有効性判断は通常とは異なるのでしょうか

コロナ禍によりどのような労働問題が生じたのでしょうか

新型コロナウイルス感染症が国内で問題になってから、2年が経過したことから(注:本記事は令和4年2月18日に作成したものです。)、コロナ禍を原因とする解雇に関する裁判例も散見されるようになってきました。
コロナ禍が、雇用関係に法的に影響を与える問題としては、

①内定取消し
②賃金未払い
③休業補償
④リモートワークによる労働時間の問題
⑤労働環境の悪化によるトラブルに基づく懲戒の問題
⑥業績悪化による整理解雇

等が考えられます。
今回は、上記①~⑥の中から、⑤および⑥のコロナ禍における解雇の問題を取り上げてみたいと思います。

⑥整理解雇に関しては、コロナ禍が原因となるケースでも、近年の産業構造の変化とコロナ禍でのその加速が背景にあるものも少なくなく、コロナ禍の影響が雇用継続の問題に結びついたものと言い得ます。
一方、⑤のコロナ禍による労働環境の悪化による解雇は、従業員の不安等を媒介して発生した問題とも言い得ます。

解雇一般の問題に関しましては、下記の記事で解説しておりますので、参考にしていただければと思います。

また、一般的な整理解雇問題のポイントに関して下記の記事で説明していますので、こちらの記事も参考にしていただければと思います。

コロナ禍の整理解雇が無効と判断された裁判例

まず、⑥の整理解雇に関する裁判例として、コロナ禍での整理解雇が無効であると認定された地位保全等仮処分申立事件(福岡地決令和3年9日)をみてみます。

この事件は、バス会社の運転手が、業務縮小を理由に解雇されたというもので、当該運転手が、解雇は合理的理由を欠き無効であるとして、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認とともに賃金の仮払いを求めたものです。
裁判所は、解雇の有効性に関し、

・・・新型コロナウイルス感染拡大によって、令和2年2月中旬以降、貸切バスの運行事業が全くできなくなり、同年3月中旬にはすべての運転手に休業要請を行う事態に陥ったこと、同年3月の売上は約・・・万円、同年4月の売上は約・・・万円であったこと、従業員の社会保険料の負担は月額・・・万円を超えていたこと、令和2年3月当時、雇用調整助成金がいついくら支給されるかも不透明な状況にあったこと等を考慮すると、その後、高速バス事業のために運転手2名を新たに雇用したことを考慮しても、債務者において人員削減の必要性があったことは一応認められる。

福岡地決令和3年9日

として、整理解雇の4要素(要件)であるⅰ)人員削減の必要性、ⅱ)人員削減手段としての整理解雇選択の必要性、ⅲ)人選の合理性、ⅳ)手続の妥当性のうち、ⅰ)人員削減の必要性を認めながらも、

しかしながら、債務者は、令和2年3月・・・日のミーティングにおいて、人員削減の必要性に言及したものの、人員削減の規模や人選基準等は説明せず、希望退職者を募ることもないまま、翌日の幹部会で解雇対象者の人選を行い、解雇対象者から意見聴取を行うこともなく、直ちに解雇予告をしたことは拙速といわざるを得ず、本件解雇の手続は相当性を欠くというべきである。

福岡地決令和3年9日

として、ⅳ)手続の妥当性を欠くとしています。
コロナ禍といえども整理解雇の4要件(要素)のひとつである、解雇時の手続きの履践は必要であるとする考えが前提にあるといえそうです
その上で、裁判所は、

・・・債権者が解雇の対象に選ばれたのは、高速バスの運転手として働く意思を表明しなかったことが理由とされている(が、)・・・ミーティングにおいて、高速バス事業を開始することを告知し、運転手らに協力を求めたものの、高速バスによる事業計画を乗務員に示し、乗務の必要性を十分に説明したとは認められないうえ、高速バスを運転するか否かの意向確認は突然であって、観光バスと高速バスとでは運転手の勤務形態が大きく異なり家族の生活にも影響することを考慮すると、当該ミーティングの場で挙手しなかったことをもって直ちに高速バスの運転手として稼働する意思は一切ないものと即断し、解雇の対象とするのは人選の方法として合理的なものとは認め難い(ので、)・・・本件解雇は、客観的な合理性を欠き、社会通念上相当とはいえないから、無効といわざるを得ない。

福岡地決令和3年9日

として、解雇を無効とし、未払い賃金請求の一部を認めています。

コロナ禍での会社解散時の解雇が有効とされた裁判例

一方、タクシー会社が、新型コロナウイルス感染症拡大に伴う売上の激減等により事業継続が不可能となったとして、全従業員に対し、解雇の意思表示をおこなった後、臨時株主総会で解散決議をおこない、清算手続を開始したのですが、この解散決議後に、会社は従業員に対し、更に予備的に解雇の意思表示をしたのに対し、従業員が、解雇無効を主張し,労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、解雇後の賃金支払等および慰謝料の支払を求めた事件(東京地判令和3年10月28日)において、裁判所は、まず、

・・・本件解雇は解散に伴うものと認められ・・・会社の解散は,会社が自由に決定すべき事柄で・・・解散されれば,労働者の雇用を継続する基盤が存在しないことになるから,解散に伴って解雇がされた場合に,当該解雇が解雇権の濫用に当たるか否かを判断する際には,いわゆる整理解雇法理により判断するのは相当でない

東京地判令和3年10月28日

と会社解散時の解雇の有効性は、整理解雇法理により判断するものではないとした上で、

もっとも,①手続的配慮を著しく欠いたまま解雇が行われたものと評価される場合や,②解雇の原因となった解散が仮装されたもの,又は既存の従業員を排除するなど不当な目的でなされたものと評価される場合は,当該解雇は,客観的に合理的な理由があり,社会通念上相当であるとは認められず,解雇権を濫用したものとして無効になるというべきである

東京地判令和3年10月28日

と解雇の有効性の判断枠組みを示した上で、

本件解雇は,新型コロナウイルス感染症の感染拡大や緊急事態宣言発出に伴う営業収入の急激な減少という予見困難な事態を契機とし・・・事前に有意な情報提供をすることは困難で・・・解雇後には一応の手続的配慮がされていたことから・・・著しく手続的配慮を欠いたまま行われたということはできない。

東京地判令和3年10月28日

と判断し、①手続的配慮を著しく欠いたまま解雇が行われたものと評価される場合には該当しないとしています。
更に、

・・・経営状態の継続的な悪化を背景に,新型コロナウイルス感染症の感染の拡大,取り分け,令和2年4月7日の緊急事態宣言発出に伴う営業収入の急激な減少を契機として,事業の継続を断念し,解散を決断して本件解雇をしたもので・・・解雇の目的は・・・十分に説明がつくもので・・・事業譲渡に当たり従業員や労働組合を排除するといった不当な目的をもってなされたものとは認められない

東京地判令和3年10月28日

として、②解雇の原因となった解散が仮装されたもの,又は既存の従業員を排除するなど不当な目的でなされたものと評価される場合にも該当しないとしています。
その上で、解雇権を濫用したものではないとして、原告の請求を棄却、慰謝料請求も棄却しています。

ここでは、コロナ禍の業績悪化が会社解散にまで至った場合、一般的な整理解雇の法理は適用されないが、一定の手続的配慮を欠いたり、解散が仮装されたものあるいは、不当な目的であったような場合には、解雇権を濫用したものとして、解雇が無効となるとしています

コロナ禍の影響が会社の存続まで及び、会社が解散を選択したような場合、解散により一般的には労働契約は終了せざるを得ないこともあり、解雇の有効性の判断は、むしろ、会社解散の正当性の判断が中心となるといえそうです。
そうしますと、経営判断の問題からしても、偽装解散であるようなケースでなければ、解雇手続上、相当程度の瑕疵がない限り、解雇無効の認定のハードルは高いものと言えそうです。

コロナ禍による労働環境悪化に起因する解雇が無効とされた裁判例

次に、コロナ禍による労働環境の悪化による解雇に関する裁判例をみてみます。
この事件としては、転職した医師が、入職初日の令和2年4月1日、白衣に,硬質の素材でできた防塵マスク,青色のゴム手袋を着用した姿で院内の患者や職員らにあいさつ回りをした行為などを理由として、即日懲戒解雇された事案で、医師が解雇無効などを主張し、地位確認と未払い賃金の支払いを求めた事件(さいたま地判令和3年1月28日)があります。

この事件で、裁判所は、懲戒解雇の有効性判断として、就業規則の懲戒解雇事由に該当するかについて、

(就業規則の懲戒解雇を定めた)同条・・・(故意又は過失によりクリニックに重大な損害を与えたとき)及び・・・(患者の個人的秘密を他に漏らしまた,患者に対し不自由・不都合な行為をしたと認められたとき)についてみるに,被告・・・の主張する損害や不都合は,原告の姿が奇異であったことから,数名の来訪者から職員に対して新型コロナウイルス感染者が出たのかといった問い合わせがあったというようなもので・・・客観的に裏付ける証拠はないばかりか,仮にかかる問い合わせがあったとしても・・・重大な損害が生じたというには足りないし,本件装備の着用自体が患者に対する不都合な行為に当たるということもできない・・・次に,同条・・・「破廉恥行為によりクリニックの名誉を汚したとき」についてみると,この懲戒事由が,「また刑事訴追を受け有罪と判決確定したとき」と並列に挙げられていることからすれば,ここにいう「破廉恥行為」は,倫理上,道義上負うべき義務に違反する行為で,かつその違反の程度が重大なものをいうと解するのが相当で・・・原告の着用していたマスクは医療現場向けでない大仰な形状もので,奇異に感じる者がいるかもしれないが・・・被告・・・において職員の服装に関する特段の規則はないこと,原告は白衣を着用しており,マスクの点を除いて特段奇異な服装をしていたとはいえないことに加え,当時,未知のウイルス感染が拡大傾向にあり,マスクが入手困難な状況であったことは公知といえること,被告・・・において代替のマスクを提供する等の対応をしなかったこと等を併せ考えれば,本件装備が上記の「破廉恥行為」に当たるということはできない・・・したがって,被告・・・が原告を懲戒解雇したことは,就業規則上の根拠を欠くものであり,無効である

さいたま地判令和3年1月28日

と判断しています。
この判断枠組みは、一般的な懲戒解雇の有効性の判断枠組みから逸脱するものではありません
尚、この事案は、令和2年4月1日という医療関係者間でも新型コロナウイルスの情報が乏しかった時期で、かつ、マスク、消毒用アルコールが著しく入手困難であった時期に発生したものであることに留意が必要です。

裁判例からの考察

上記の3つの裁判例からしますと、コロナ禍の解雇有効性の判断に関しても、基本的には、従前の判断枠組みと判断基準は異なるものではないといえます。
その上で、コロナ禍の出来事であるという特殊性を取り込んで要件の判断をおこなっているといえます。コロナ禍の解雇問題の特殊性もその範囲で考慮されていくのであろうと思われます。

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