特別縁故者について、法律相談に行く前に押さえておきたいこと

※作成時の法律、判例に基づく記事であり、作成後の法改正、判例変更等は反映しておりません。

相続人のいない方が亡くなると遺産はどうなるのでしょうか

人が亡くなると相続が開始します

人が亡くなると、その瞬間に相続が開始します。
亡くなった方が残した財産を相続財産といいますが、その相続財産は、遺言を残していなければ、法律(民法886条~)で定められた法定相続人が包括的に引き継いだこととなります(民法896条参照)。

それでは、法定相続人が存在するのか不明な方、あるいは法定相続人が存在しない方が、遺言を残さずに、相当な金額の財産を残して亡くなった場合、相続財産はどのように処理されるのでしょうか。

相続人が存在するのか不明な場合の相続財産の処理の大まかな流れ

相続人が存在するのか不明な場合、関係者の請求により裁判所により相続財産管理人が選任されます(民法952条参照)。
選任された相続財産管理人は、

①相続財産の財産目録作成等の管理、現金化等の処分をおこなうと共に

②相続人を探し  
 ⓐ見つかった場合は相続人に相続財産を引き継ぎ
 ⓑ見つからない場合は相続権主張の催告の公告を官報でおこない、催告期間内に相続人が名乗りでない場合、残った相続財産を清算し、国庫に引き渡す

こととなります(民法953条・同27~29条、957条参照)。
尚、上記②ⓑと関連しますが、令和3年の民法改正により、令和5年4月から、相続人に対する権利主張の公告は、相続財産清算人の公告と共におこなわれることとなります。

上記の手続きの流れは、令和5年3月までは、下記のようになります。

特別縁故者に対する相続財産の分与の制度について

相続人が名乗り出ないとき特別縁故者の制度が現れます

しかし、実は、上記の②ⓑの催告によっても相続人が名乗り出なかった場合に、残った財産の全部または一部を、亡くなった方と特別の関係のあった「特別縁故者」に対して分与する手続きがあります。

特別縁故者には、どのような人が該当するのでしょうか

相続財産を残し亡くなった方(被相続人)とどのような関係のあった方が「特別縁故者」に該当するかについては民法958条の3第1項(令和5年4月1日から957条の2第1項)において、

ア 被相続人と生計を同じくしていた者

イ 被相続人の療養看護に努めた者

ウ その他被相続人と特別の縁故があった者

と規定しています。
尚、「被相続人」とは、ここでは、相続人の存在が不明な財産を残して亡くなった方のことを指します。

上記のア~ウに該当する方が特別縁故者に該当するのですが、具体的には、

アの「被相続人と生計を同じくしていた者」には、相続財産を残して亡くなった方と家計を同じくして生活をしていた者のことで、内縁の配偶者、未認知の非嫡出子、事実上の養親子、伯叔父母など家族的な共同生活を送りながら相続権が認められない方が該当します。

イの「被相続人の療養看護に努めた者」とは相続財産を残して亡くなった方に献身的に療養看護した方のことを指します。

ウの「その他被相続人と特別の縁故があった者」とは、アとイに該当する方と同じくらいに密接な縁故関係のあった方のことであり、親族あるいは近親者として通常の交際していたに過ぎない人は該当しないとされています。

どのような場合に分与が認められ、分与の金額はどのくらいなのでしょうか

まず、特別縁故者に該当しても相当でないと認められると相続財産の分与は受けられません。

そして、分与の割合(全部分与なのか、一部分与なのか、一部分与であれば相続財産のどの程度の割合の分与なのか)については被相続人との親密さ、相続財産の規模・内容、特別縁故者の年齢・社会的地位、経済的状況等の諸事情を考慮して家庭裁判所が裁量により判断することとなります。

特別縁故者としてどのような人が該当するのかにつきましては、下記のブログ記事で、事例をみながら説明しておりますので、参考にしていただければと思います。

尚、分与が認められなかった場合の相続財産全部、一部分与となった場合の残りの相続財産は国庫に帰属することとなります(民法959条)。

特別縁故者として分与を申し立てる場合の手続きについて

特別縁故者としての分与を申し立てる場合、上記②ⓑの相続権主張の催告の期間満了後3カ月以内に家庭裁判所に対し「特別縁故者に対する相続財産分与審判申立書」を提出する必要があります。

この申立てがおこなわれますと、裁判所は、相続財産のうち幾らを申立人に分与するか、あるいは一切分与しないかを判断して、審判を下します。

仮に分与が認められ、その審判が確定すると、分与が認められた金額が相続財産管理人から申立人に対し支払われることとなります。

このような相続人がいない相続財産の処分に関する大まかな手続きの流れは、次の図のようになります。

相続財産分与審判申立てと審判の流れ

特別縁故者に対する相続財産分与審判までの大まかな流れは下記のようになります。
尚、具体的事情によっては若干異なることにご注意ください。

尚、令和3年の民法改正により、令和5年4月から、上記③の相続人に対する権利主張の公告は、相続財産清算人選任時の選任の公告と共におこなわれることとなります。

カテゴリー別ブログ記事

最近の記事
人気の記事
おすすめ記事
  1. 養子の死後発生した養親の子の相続において養子の子は代襲相続するのでしょうか

  2. 御嶽山噴火事故控訴審判決における国の違法性に関する判断について

  3. 特別寄与料の負担割合は遺留分侵害額請求権行使により変化するのでしょうか

  4. 職種限定合意が認められる場合も職種変更を伴う配置転換をおこないうるのでしょうか

  5. 師弟関係のハラスメント認定とマスコミへの情報提供の違法性について

  1. 法律上の期間、期限など日に関すること

  2. 職務専念義務違反とは?~義務の内容、根拠、問題となるケースなど

  3. 公序良俗違反とは?~その意味、具体例、法的効果と金銭返還請求など

  4. 議会の議決なく締結した契約に対する地方公共団体の長の損害賠償責任

  5. 信義則違反とは?~信義誠実の原則、その性質、効果、適用事例など

  1. 山の頂、稜線が県・市町村の境界と一致しない例と理由、帰属の判断基準

  2. 公序良俗違反とは?~その意味、具体例、法的効果と金銭返還請求など

  3. スキー場立入禁止区域で発生した雪崩事故の経営・管理会社、同行者の責任

  4. スキー場の雪崩事故と国賠法の瑕疵認定~判断枠組み、予見可能性の影響等

  5. 配置転換は拒否できるのでしょうか?

関連記事