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遺産分割とは
人(被相続人)が死亡すると相続が開始します。
(法定)相続人がひとりの場合、原則として、被相続人の残した相続財産(遺産)を、ひとりの相続人がすべて相続することとなります。
しかし、相続人が複数いる場合、被相続人が有してた貸付金債権、売掛金債権などの可分債権を除き、原則として、相続開始と同時に相続財産は相続人間の共有となります。
遺産分割は、この共有となっている相続財産の共有状態を解消し、各相続人の単独財産とするものです。
尚、可分債権は、遺産分割を経ることなく、相続開始と同時に各相続人の法定相続分に応じて当然分割されて相続されることとなります(最判昭和29年4月8日)。
たとえば、100万円の貸付金債権が残されており、相続人が配偶者と子2人の計3名であった場合、相続開始とともに、妻は50万円、子は各々50万円の貸付金債権を取得することとなります。
そこで、可分債権は、遺産分割の対象とはなりませんが、相続人合意があれば、遺産分割の対象とすることも可能です。
ただし、預貯金に関してましては、遺産分割の対象とされています(最大決平成28年12月19日)。
遺産分割の方法
遺産分割協議
遺産分割は、遺産分割協議によりおこなわれます。
当事者間の遺産分割協議で合意に至れば、遺産分割協議書を作成し、相続財産である不動産の相続登記、有価証券の名義変更などをおこなうこととなります。
遺産分割調停および審判、即時抗告
当事者間の遺産分割協議がまとまらないような場合、相続人が家庭裁判所(申立てをおこなう相続人ではなく、相手方となる相続人の住所地を管轄する裁判所、または当事者が合意した裁判所)に遺産分割調停を申し立てることとなります。
しかし、調停委員会(直接的には、主に2人の調停委員)の関与はありますが、調停は相続人間の話し合いによる合意を形成する場であり、裁判所が分割方法を決める場ではありません。
そこで、調停においても分割方法の合意に至らないこともあり、その場合、調停は不成立となり、手続きは審判へと移ることとなります。
その審判では,裁判官が分割方法を決めることとなります。
この審判に不服がある場合、高等裁判所へ即時抗告をおこなうことも可能となっています。
尚、即時抗告は、審判の告知を受けてから2週間以内に、審判を下した家庭裁判所へ抗告状を提出することによりおこないます。
最初に押さえたい4つのポイント
遺産分割においては、最初に次の4つのポイントを意識する必要があります。
- 相続人は誰なのか(相続人の範囲)
- 遺言書はあるのか
- 遺産分割の対象となる相続財産は何なのか
- 相続財産の評価について
相続人は誰なのか
遺産分割協議をおこない、遺産分割協議書を作成しても、一部の相続人が遺産分割協議に参加していなかったような場合、その遺産分割協議も無効となるのが原則です。
このこともあり、遺産分割に際しては、最初に相続人の範囲を把握する必要があります。
相続人の他にも、相続分の譲受人および下記の包括受遺者も遺産分割においては、相続人と同様に参加者として扱われることとなります。
法定相続人につきましては、下記の記事で解説していますので参考にしていただければと思います。
遺言書はあるのか
遺言が遺産分割の参加者および対象へ与える影響
相続人以外の人に相続財産の一定割合を遺贈する内容の遺言があったような場合(たとえば相続人ではないAに遺産の1/3を遺贈するという内容)、その受遺者(「包括受遺者」といいます。)も、相続において相続人と同様に扱われます(民法990条参照)。
そこで、包括受遺者にも遺産分割協議に参加してもらう必要があります。
また、遺言は、下記のように遺産分割の対象となる相続財産の範囲にも影響を与えます。
海外在住の日本国籍者が作成した遺言
尚、日本国籍を有する者が海外に居住している場合でも、日本の民法に基づき遺言を作成すれば国内においても有効です。
一方、居住地の外国法に基づき遺言を作成した場合、その遺言が日本の民法の要件をみたしていないこともあります。
しかし、その場合でも、一定の要件をみたせば、「遺言の方式の準拠法に関する法律」により、国内でも有効な遺言として扱われます。
遺産分割の対象となる相続財産は何なのか
相続財産が必要となる理由
既に述べましたように、プラスの相続財産は相続開始時に相続人間で共有となりますが、遺産分割はその共有となった相続財産を分割するものとされています。
そこで、相続人が複数人存在する場合、原則として相続財産の遺産分割をおこなう必要がでてきます。
このことからも、遺産分割に先立ち、被相続人の残した相続財産を調査・確認する必要があります。
尚、どのような財産が相続財産に含まれるかについては、下記の記事において解説していますので参考にしていただければと思います。
相続債務の遺産分割での扱い
ところで、相続財産にはプラスの財産と共にマイナスの財産(相続債務)も含まれ、相続人はマイナスの相続財産(相続債務)も相続することとなります。
しかし、相続債務の負担割合を相続人間で決めても、債権者に対しては対抗できないのが原則です。
このこともあり、一般的には、マイナスの相続財産(相続債務)は遺産分割の対象とはなりません。
遺言が遺産分割の対象に与える影響
遺言において、特定の財産(特定の不動産、特定の株券など)を特定の相続人に「相続させる」としていた場合、あるいは特定の財産を相続人あるいはその他の人に遺贈(特定遺贈)するとしていた場合などは、その特定の財産は、遺産分割の対象から外れることとなります。
尚、遺言が、相続人の相続分の指定をおこなう内容のもの(たとえば、相続人Aの相続分を2/3、Bの相続分を1/3と指定する内容)であれば、遺産分割の対象となる相続財産の範囲は遺言により影響を受けません。
また、特定の財産を相続あるいは遺贈する内容の遺言の場合、その特定の財産以外の相続財産は遺産分割の対象となります。
尚、遺言が残されていても、相続人全員の合意があれば、遺言と異なる内容の遺産分割をおこなうことも可能となります。
相続財産の評価について
遺産分割において、相続財産の総額を把握する必要があります。
しかし、相続財産には、不動産、動産、預貯金など形態の異なる財産が含まれており、個別の相続財産を金銭評価する必要性があり得ます。
この金銭評価として、土地・建物などの不動産および有価証券などは、遺産分割時の評価額を採用することとなります。
一方、特別受益の算出に関しては、相続開始時で評価しますので、その評価時点が異なることに留意が必要です。
特別受益に関しては、下記の記事で扱っていますので参考にしていただければと思います。