外資系金融機関フロントオフィスの解雇有効性判断枠組~一般企業と違う?

※作成時の法律、判例に基づく記事であり、作成後の法改正、判例変更等は反映しておりません。
この記事で扱っている問題

以前から、外資系金融機関のフロントオフィスに勤務する人は、高額報酬を得る代わりに雇用は不安定であると考えられてきました。
本国の方針として、部門縮小を理由に、パッケージを提示され退職を迫られる人は珍しくはありません。

ここでは、外資系金融機関のフロントオフィスに勤務する人が、退職勧奨に応じず、整理解雇された場合の解雇の有効性を判断する枠組みについて、近時の裁判例をみながら解説します。

整理解雇の有効性の問題

整理解雇とは、会社の人員削減の必要性からおこなわれる解雇のことです。

この整理解雇も解雇の一種であることから、労働契約法16条により、「合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効」となります。

そして、国内では長期雇用慣行が一般的であったことから、整理解雇の有効性判断の判断基準としては厳格な基準が採用され、

①人員削減の必要性
②解雇回避の努力
③人選の合理性
④解雇手続の妥当性

整理解雇の4要件として、①~④の要件のいずれかを欠く場合、整理解雇は無効となると考えられてきました。
尚、近時では、①~④を整理解雇の4要素と考え、ひとつでも欠けると無効というわけではなく、これらの要素を総合的にとらえて有効性判断をおこなう流れにあるともいわれています。

尚、整理解雇の問題一般につきましては、下記の記事で解説しています。

外資系金融機関の労働者の特殊性?

かねてより、外資系企業、とくに外資系金融機関のフロントオフィスに勤務する人は、高額報酬を得る代わりに雇用は不安定であると考えられてきました。

このように、雇用が不安定であるとの認識が一般的なのであれば、労働契約締結に際し、労働者も雇用の安定性への期待を抱いておらず、雇用の安定性への期待権の保護も問題とはならないとも考えられます。
一方、長期雇用慣行が一般的であることが、整理解雇の有効性判断において厳格な基準(整理解雇の4要件)を採用している理由と考えられていることからしますと、雇用の安定性への期待権の保護が問題とならない場合、緩やかな基準が採用されることになりそうです。

そうしますと、国内企業の労働者と異なり、外資系金融機関のフロントオフィスの労働者の整理解雇の有効性判断においては、上記の整理解雇の4要件のような厳格な基準は採用されないとも考えられます。

それでは、実際の裁判例では、外資系金融機関のフロントオフィスに勤務する人の解雇の有効性について、どのような基準で判断しているのでしょうか。
ここでは、外資系金融機関のフロントオフィスに勤務する人の、整理解雇の有効性が争点となった2つの裁判例をみてみます。

整理解雇の有効性が争われた裁判例1

事案の概要

外資系金融機関において債権引受業務を担当していた年俸2000万円弱の人が、パッケージ提示を拒否したところ解雇された事案で、解雇された人が解雇無効を主張し、地位確認、未払賃金支払いなどを求め訴訟を提起しました(東京地判平成26年6月24日)。

この裁判では、整理解雇の有効性が争点となりました。

外資系金融機関の主張

整理解雇の有効性に関連して、被告である外資系金融機関は、次のように主張しました。

・・・本件解雇は,解雇事由である・・・(就業規則・・・号)に当たる。
・・・グループでは,業績建て直しのための大幅な組織変更とこれに伴う全世界的な人員削減が強く要求されることとなった。・・・被告においても・・・3期連続の損失を計上・・・不採算部門の廃止,統合,縮小が必須となった・・・そこで,資本市場・・・についても,縮小が決定され・・・た。
被告のような外資系金融機関においては,世界の経済状況に迅速に適応するため,中途採用者を高い報酬で採用する反面,世界の経済状況に合わせて,業務の変更,拡大,縮小を行う必要があるため,社員の入れ替わりが極めて頻繁である。原告は,それを承知で被告に入社したのであり,業績次第では,人員削減が必要となることは十分に予測できたはずで・・・本件解雇は,人員削減の高度の必要性に基づくものであった。・・・

東京地判平成26年6月24日

などとした上で、整理解雇の4要件をみたしていると主張しました。

被告は、このように、外資金融機関の雇用に関し、
「外資系金融機関においては中途採用者を高い報酬で採用する反面・・・社員の入れ替わりが極めて頻繁で・・・原告は,それを承知で被告に入社し・・・業績次第では,人員削減が必要となることは十分に予測できたはず」
と主張しています。

とくにフロントオフィスでは高額な報酬を得る人が少なくないことから、このような認識のもと、整理解雇に際し、「宿命だ」と考える労働者も多かったものと思われます。
その意味では、この被告の主張は、昭和から続く外資系金融機関関係者の多くが有していた認識に基づくものであったともいい得ます。

裁判所の判断

この外資系金融機関の主張に対し、裁判所は、

被告は,外資系金融機関において社員の入れ替わりが頻繁であることを原告が承知していたと主張するが,外資系金融機関において社員の入れ替わりが頻繁であるという一般論が人員削減の必要性の認定を緩やかに解する根拠にはならない。

東京地判平成26年6月24日

としています。

その上で、解雇を無効と判断しています。

整理解雇の有効性が争われた裁判例2

事案の概要

外資系金融機関のシンジケーション部門の本部長を務めていた年俸4000万円強の人が解雇された事案で、解雇された人が解雇無効を主張し、地位確認、未払賃金の支払いなどを求めて訴訟を提起しました(東京地判令和 3年12月13日)。

この事件においても、整理解雇の有効性が争点のひとつとなりました。

外資系金融機関の主張

この裁判において、被告である外資系金融機関は、

・・・は、いわゆる外資系投資銀行であり、日本の一般的な企業とは異なり、終身雇用又は長期雇用を想定していない。被告は、ポジションごとに、それにふさわしい専門能力を有した人材を採用しており、原則として被告の命令による一方的な配転を行わないし、従業員も、より高いポジションを求めて転職を繰り返すことによって自分の市場価値を高めていく。極めて高額な報酬が得られる代わりに、会社に貢献することができなくなった場合には、退職を求められる可能性があるということは、外資系金融機関で働く者にとって常識である。
原告は、・・・年以上にわたって外資系金融機関で勤務し、最上位の職位まで登り詰め・・・に昇進した後の・・・年間に限っても・・億・・・万円を超える報酬を得てきたのであるから、外資系金融機関における雇用慣行を十分に理解していたことは明らかである。

東京地判令和 3年12月13日

と主張し、整理解雇の有効性判断の枠組みに関しても、

原告が主張する整理解雇の4要件は、典型的な大手日本企業における人員削減のための解雇の有効性を判断した裁判例の蓄積によって生まれたものであり、本件にそのまま当てはめることはできない。硬直的な整理解雇法理を適用し、本件解雇が無効であるとの判断がされれば、国際企業が日本におけるビジネスから撤退し、又は、日本において高い職位を設けないという結果を招きかねない。4要件とされる事項は、客観的に合理的な理由の有無と社会通念上の相当性を判断する際における代表的な考慮要素にすぎず、典型的な日本企業と外資系金融機関における雇用慣行の違いは、4要件とされる事項以外の要素として考慮されるべきである。

東京地判令和 3年12月13日

として、整理解雇の4要件は、外資系金融機関の解雇が問題となっている本件では採用されるものではないと主張しています。

この被告の主張は、上記の裁判例同様な、外資系金融機関関係者の多くが有していた認識に基づくものといえます。

裁判所の判断

裁判所は、この外資系金融機関の主張に対し、

就業規則・・・号は、労働者に何らかの帰責事由があることを理由とせず、経営上必要とされる人員削減を理由として行われる解雇の事由を規定したものであり、いわゆる整理解雇の解雇事由を定めたものということができる。そうすると、同号に基づく解雇の有効性を判断するに当たっては、人員削減の必要性、解雇回避努力、人選の合理性、手続の相当性といった諸要素を総合的に考慮した上で、本件解雇が同号所定の事由に該当し、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められるか否か(労働契約法16条)を判断するのが相当である。
これに対し、被告は、外資系金融機関における雇用慣行に照らせば、本件解雇については上記諸要素に沿って判断すべきではないなどと主張するが、本件解雇の有効性の判断において、雇用慣行等を背景とした原被告間の労働契約の内容を踏まえるべきことと上記諸要素を考慮すべきことは何ら矛盾するものではなく、上記判断枠組み自体を否定すべき理由はないというべきである。

東京地判令和 3年12月13日

としており、雇用慣行と整理解雇有効性判断において、整理解雇の4要素(本件では、4要素説に親和性があると思われます。)を検討することとは矛盾しないとしています。

この点に関連し、裁判所は、

被告は、本件解雇が無効であるとの判断がされれば、国際企業が日本におけるビジネスから撤退し、又は、日本において高い職位を設けないという結果を招きかねないなどとも主張する。・・・被告が指摘する懸念については、使用者において、国際企業における人事労務管理と整合する合理的な内容の労働契約や就業規則を締結又は制定するようにしたり、解雇の有効性を基礎づける事実を裏付ける客観的な資料を適切に作成し保存したりすること等によって対処することができるものであり、被告の上記主張を採用することはできない。

東京地判令和 3年12月13日

としています。

このような判断をもとに、裁判所は解雇を無効と判断しています。

2つ目の引用箇所からしますと、本件裁判では、上記の外資系金融機関関係者の多くが有していた認識があったとしても、国内の解雇に際しては、一般の国内企業と類似の判断枠組みで解雇の有効性が判断されるとしていることとなります。

その上で、外資系金融機関の特殊性を解雇の際に主張するのであれば、労働契約あるいは就業規則などに、その特殊性を明文化しておく必要があると示唆しているとも読み取れます。
ただし、そのような特殊性を労働契約、就業規則などで規定したとしても、その規定自体が公序良俗違反などにより無効と判断される可能性は残るものと思われます。

外資系金融機関の整理解雇の有効性判断枠組み

上記の2つの裁判例からしますと、外資系金融機関においても、整理解雇の有効性判断に際しては、整理解雇の4要件(あるいは4要素)を用いて判断されるものと考えられます。

また、2つ目の裁判例からしますと、外資系金融機関において、高額報酬を得る代わりに雇用は不安定という認識を労働契約関係に反映させるためには、労働契約あるいは就業規則において、解雇条件を明文化する必要があるものと考えられます。
ただし、そのような規定を設けても、当該規程は公序良俗違反で無効と判断される可能性は残るものと思われます。

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