労働条件の決定、変更方法とその有効性判断、および無効の場合の労働条件

※作成時の法律、判例に基づく記事であり、作成後の法改正、判例変更等は反映しておりません。
この記事で扱っている問題

労働契約締結時に作成される労働契約書、あるいは交付される労働条件通知書などには、労働条件がすべて記載されているわけではありません。
就業規則、労働協約などにも労働条件が定められています。

ここでは、個別労働契約、就業規則、および労働協約に定められた労働条件の効力、各々に定められた労働条件が相互に矛盾するときの扱いなどについて根拠条文をみながら解説します。

労働条件について

労働契約上の労働条件について

労働基準法15条では、

(労働条件の明示)
第十五条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
② 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
③ 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から十四日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。

労働基準法15条

と定められ、同項の1項の厚生労働省令として、労働基準法施行規則5条が規定されています。

このように、労働契約の締結時、使用者は労働者に対し、賃金、労働時間などの労働条件を明示することを労働基準法15条1項により義務付けられています。
そして、労働基準法施行規則5条では、明示することが義務付けられる労働条件として、「労働契約の期間に関する事項」、「就業の場所及び従事すべき業務に関する事項」など、主要な労働条件を概括的に14号にわたって列挙しています。

このように、労働基準法15条1項および同法施行規則5条から、主要な労働条件については労働契約締結の際に明示することが義務付けられています。

労働条件の規定方法

この労働条件のうち、会社休日、退職金制度など、全社的あるいは一定の集団に属する従業員全員に対する労働条件については、多くは就業規則、労働協約により規定されることとなります。

一方、従業員の個別賃金、配転などの個別の労働条件に関しては、個別労働契約により規定されることとなります。

上記のうち、就業規則により規定された労働条件に関しては、労働契約法7条において、

第七条 労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。

労働契約法7条

とされていることから、就業規則に定められた労働条件が合理的であり、労働契約締結時に就業規則を交付するなどして明示されていれば、就業規則に規定された労働条件が使用者・労働者間における労働契約の内容となります。

一方、個別の労働条件に関しては、労働契約の締結に際し、労働契約書あるいは労働条件通知書などで明示されることにより、労働契約の内容となります。

労働協約、就業規則および労働契約間の矛盾

まず、就業規則と労働契約の間の労働条件に矛盾が生じている場合の効力については、労働契約法12条において、

(就業規則違反の労働契約)
第十二条 就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。

と規定しています。

このように、個別労働契約に規定された労働条件が、就業規則に規定される水準を下回る場合、個別労働契約に定められた労働条件は無効となり、就業規則に規定された労働条件が適用されることとなります。
尚、この場合、個別労働契約において無効となるのは、就業規則の水準を下回る労働条件のみであり、個別労働契約の労働条件全体が無効となるわけではありません。

一方、個別労働契約に定められた労働条件が、就業規則の水準を上回る場合は、個別労働契約に規定された労働条件がそのまま適用される(有効)こととなります。

次に、就業規則の労働条件が労働協約の労働条件の水準を下回る場合については、労働契約法13条において、

(法令及び労働協約と就業規則との関係)
第十三条 就業規則が法令又は労働協約に反する場合には、当該反する部分については、第七条、第十条及び前条の規定は、当該法令又は労働協約の適用を受ける労働者との間の労働契約については、適用しない。

労働契約法13条

と規定されています。

そこで、就業規則の労働条件が労働協約に規定された水準を下回る場合は、就業規則の当該労働条件は、労働契約の労働条件とはなりません。
しかし、その場合も、労働協約に抵触していない就業規則の労働条件は、労働契約の労働条件となり得ることとなります。

更に、個別労働契約に規定された労働条件が、労働協約の水準を下回る場合については、労働組合法16条に、

(基準の効力)
第十六条 労働協約に定める労働条件その他の労働者の待遇に関する基準に違反する労働契約の部分は、無効とする。この場合において無効となつた部分は、基準の定めるところによる。労働契約に定がない部分についても、同様とする。

労働組合法16条

と規定されています。

このように、個別労働契約に規定された労働条件が、労働協約に規定される水準を下回る場合、個別労働契約に定められた労働条件は無効となり、労働協約に規定された労働条件が適用されることとなります。
尚、この場合、個別労働契約において無効となるのは、労働協約の水準を下回る労働条件のみであり、個別労働契約の労働条件全体が無効となるわけではありません。

労働協約、就業規則、および個別労働契約の関係

上記のように、労働組合法16条により、労働協約に規定された労働条件が、個別労働契約に規定された労働条件に優先することとなります。
また、労働契約法13条により、労働協約に規定された労働条件が、就業規則に規定された労働条件に優先することとなります。
更に、労働契約法12条により、就業規則に規定された労働条件が、個別労働契約に規定された労働条件に優先することとなります。

これらのことから、労働協約、就業規則、および個別労働契約に規定されている労働条件について、下記の右側にくるものに規定されて条件が、左側にくるものに規定されている条件を下回る場合は、左側にくるものに規定されてる労働条件が適用されることとなります。
つまり、①に規定されている労働条件の適用が最も優先され、②、③の順に劣後して適用されることとなります。

①労働協約 > ②就業規則 > ③個別労働契約

一方、下記の右側にくるものに規定されて条件が、左側にくるものに規定されている条件を上回る場合は、右側にくるものに規定されてる労働条件が適用されることとなります。
つまり、①に規定されている労働条件の適用が最も優先され、②、③の順に劣後して適用されることとなります。

③労働協約 < ②就業規則 < ①個別労働契約

労働条件の変更について

労働契約は継続的な契約であり、長期にわたることが多いことから、労働契約の継続中に、労働環境、個別労働関係の変化などにより、労働条件の変更が必要となるケースが出てきます。

労働契約法8条では、

(労働契約の内容の変更)
第八条 労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。

労働契約法8条

として、労働契約関係の継続中にも、労働条件の変更が可能であることを定めています。

会社休日の変更、退職金制度の変更など、集団的な労働条件の変更に関しては、多くの場合においてこれらの条件が規定されている、就業規則あるいは労働協約の改定によりおこなわれることとなります。

一方、従業員の個別賃金、配転など、個別の労働条件の変更に関しては、個別労働契約の変更によりおこなわれることとなります。

労働契約締結・変更における合理的な労働条件とは

労働契約法7条では、就業規則に規定された労働条件が、労働契約の内容となるには、「合理的な」労働条件であることを要求しています。

そこで、どのような、労働条件が「合理的」なものであるのかが、問題となり得ます。

労働契約法3条は、この「合理性」の解釈基準となるとされています。

同条は、

(労働契約の原則)
第三条 労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする。
2 労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。
3 労働契約は、労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。
4 労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。
5 労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない。

労働契約法3条

とされています。

そこで、労働契約の締結、変更時の労働条件が「合理的」であるかの判断は、

  • 労使が対等の立場でおこなわれているか
  • 就業の実態に応じた均衡なものであるか
  • 仕事と生活の調和に配慮されているか

などにより判断されることとなります。

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