運動会、各種催し物で設置されることがある大型テントが、風に飛ばされる事故が発生したとき、国家賠償法2条1項の責任と民法717条の責任は問題となり得るのでしょうか。
ここでは、テントが土地の工作物に該当し得るのか、どのような場合にテントの瑕疵を認定し得るのか、裁判例をみながら解説しています。
目次
テントに関する法的責任の問題について
運動会、各種催し物で設置されることがある大型テントが、風に飛ばされ、これにより、損害が発生した場合、当該テントの占有者に対し、民法717条1項の責任を問うことが考えられます。
尚、民法717条1項は下記のように規定されています。
(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
民法717条
第七百十七条 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
(2項および3項省略)
そこで、717条1項の責任を問うには、
- 当該テントが「土地の工作物」に該当し
- 風に飛ばされたことが設置、保存の瑕疵によるもの
といえることが必要となります。
しかし、テントは大型といえども、短時間であれば数時間設置されているだけであり、はたして、「土地の工作物」といい得るのか疑問の余地はあります。
一方、テントが飛ばされる原因となった風が、予期されていなかった突風であったような場合、果たして、そのような突風に飛ばされたことを理由として、「設置又は保存に瑕疵がある」といい得るのかという点も疑問の余地があります。
テントの瑕疵が問題となった裁判例
事案の概要
テントの「土地の工作物」、「公の営造物」該当性、およびその瑕疵が争点となった裁判例として名古屋地判平成27年2月19日があります。
この裁判は、実行委員会(以下「甲」といいます。)と、地元地方自治体(以下「乙」といいます。)の共催により、公園内で3日にわたり開催されたサマーフェスティバル(以下「本件フェスティバル」という。)において、会場内に飲食店を設けるために設置されていた大型テント(以下「本件テント」、あるいは単に「テント」といいます。)が、開催日の正午過ぎ、テント近くにいた人(以下「A」といいます。)とともに飛ばされ、これにより、Aが死亡した事故に関するものです。
この事故を理由として、Aの相続人は、
甲に対しては、
- 甲が占有していた本件テントを風速20m/sの風で飛ばされないように設営すべきところ、風速15m/sを超える風が吹いて飛ばされるように設営していることは、テントの設置または保存に瑕疵に該当し、民法717条1項の責任(土地の工作物の責任)を負う
- 本件テントの適切な設置管理を怠り、事故時にも避難誘導等の指示を怠ったのは、安全配慮義務違反に該当する
として、
乙に対しては、
- 乙は甲と共同で本件フェスティバルを開催しており、甲も本件上記テントを占有していたことから、国家賠償法2条1項の公の営造物の瑕疵に関する責任を負う
- 乙と同様に来訪者に対する安全配慮義務に反しており、甲は、国家賠償法1条1項の責任を負う
として、損害賠償を求め訴訟を提起しました。
「公の営造物」「土地の工作物」該当性について
公の営造物該当性について
まず、乙の国家賠償法2条1項の責任を考えるにあたり、テントが「公の営造物」に該当するかが問題となりえます。
「公の」といえるかについては、下記の記事で詳しく解説していますが、「直接に公の目的に供されている」状態にあるか、あるいは「実際に公の目的のために使用されていたか」といえるかで判断されることとなります。
このことから、本件テントに関しては、「公の」に該当することについては問題ありません。
また、「営造物」該当性に関しても、下記の記事で解説していますが、国家賠償法2条1項の「営造物」には、動産も含まれるとされていることから、テントが「営造物」に該当することも問題はなさそうです。
したがって、本件テントが「公の営造物」に該当することは、とくに問題はなさそうです。
土地の工作物該当性について
一方、土地の工作物とは、土地に接着した人工的作業を加えた物と考えられていることから(大判昭和3年6月7日)、テントは「土地に接着し」ているといい得るかが問題となります。
この名古屋地判平成27年2月19日においても、甲は、
本件テントは、四張のテントが南北に縦に並べられ、それぞれがボルトで連結されて地面に置かれていただけであり、地面に何らの基礎を有していなかったうえ、本件フェスティバル終了後に撤去される予定であった。したがって、本件テントは、土地との接着性、定着性がなく、土地の工作物に当たらない。
名古屋地判平成27年2月19日
と主張しています。
裁判所の判断
裁判所は、土地の工作物該当性について、
本件テントは、縦約一〇m、奥行き約一〇m、高さ頂部約五mの四つのテントを連結したものであり・・・作業員数名が鉄骨を組み立てて機械でネジ締めし、クレーンでつり上げたテント生地を鉄骨に固定して設置され、その重量は約四七五〇kgに及び、三五〇kgの重石一四個等が鎖で繋がれてその重さは合計五三〇〇kgあり、これらの総重量が約一〇・〇五tにのぼるものと認められる。そうすると、本件テントは、一旦設置されると移動させることが極めて困難であることから、土地に接着した人工物であると解するのが相当で・・・本件テントは土地工作物に該当する。
名古屋地判平成27年2月19日
として、土地の工作物に該当するとしています。
ここでは、テントの重量、設置方法などから「一旦設置されると移動させることが極めて困難であること」を理由として、本件テントが民法717条1項の土地の工作物に該当するとしています。
したがって、登山用テント、ツエルト等の軽量かつ、簡易に設置されるテントが土地の工作物に該当するかに関しては、この裁判例の射程が及ぶものではありません。
テント設置または保存、管理の瑕疵について
設置、保存、管理の瑕疵とは
裁判所は、民法717条1項の土地の工作物の設置、保存の瑕疵、国家賠償法1条1項の公の営造物の設置、管理の瑕疵について、まず、
土地工作物や営造物の設置または保存、管理の瑕疵とは、工作物ないし営造物が、その客観的性状または機能的観点から、通常予想される危険に対して備えているべき安全性を欠いていることをいい、瑕疵の有無は、当該物の構造、用途、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して個別具体的に判断すべきである。
名古屋地判平成27年2月19日
とその判断枠組み、基準を明示しています。
テントの瑕疵に関する裁判所の判断について
上記の判断枠組み、基準に基づき、裁判所は、
原告らは、本件テントが風速約一五m/sの風で飛散するが、これくらいの風速の風が吹くことは通常あり得るから、テントは風速二〇m/sの風でも飛ばないようにすべきであり、本件テントが通常有すべき安全性を欠いているとして、その設置または保存に瑕疵があると主張・・・しかしながら、テントの設置について、風速二〇m/sで飛散しないことを定める法令上の規定は認められない。建築基準法は、建築物について、その構造等の最低の基準を定めているところ、テントの設営の場合、テントには大きさや構造など様々なものがあるうえに、通常一時的な使用を想定し、強風等の危険が予想される場合には、テントの安全を図るというよりも、通常テントを設置しないことから、一律に構造等の基準を定めがたいものと考えられ、そのため、上記のとおり、テントの構造等について、法令上の基準や規定がないものといえる。ほかに・・・業界団体の自主基準規定の存在もうかがえない。実際にも、テントを設営するときに、設営業者が一定の風速の数値で飛散しないような構造でテントを設置しているような実例もうかがえない。したがって、風速二〇m/sで飛散しないようにテントを設営しなければ設置に瑕疵があるなどとはいえないのであって、原告らの上記主張は前提を欠く・・・また、大型テントは、通常吹く程度の風速の風で浮き上がったり、飛散したりしないように設置しなければならないといえるとしても、風速二〇m/s程度の風は、七月に・・・市において観測された過去の最大瞬間風速に匹敵するものであり、通常吹く程度の風とはいえないから、この風速でも飛散しないように設置を要するものとはいえない。・・・ところで・・・試験所は、本件事故後に実地調査を行い・・・模型化して風洞実験を行ったところ・・・風速約一〇m/sの風で浮き上がるとの結果を公表し・・・上記支柱が風速約一五m/sの風で浮き上がるとの試算をしている・・・もっとも、模型実験であれば事故当時の事実関係が正確に反映されているかどうかということを考慮しなければならないし・・・その精緻さにも限度があるはずで・・・実験等の結果を踏まえても、本件テントは、風速一五m/s程度の風では転倒、飛散しない可能性があるし、通常吹く程度の風で転倒したり飛散するものとも認められない。他方、本件事故時、現場に近い敦賀特別地域気象観測所で最大瞬間風速二九・七m/sを観測したことから、本件フェスティバル会場でも同程度の風速の風が吹いたと推定することができ、本件テントは突風によって飛ばされているが、風速一五m/sの風によって飛散したと認められるものではない。そうすると、風速一五m/sの風により本件テントが飛散することを前提とする原告らの主張は、この点からも採用できない。・・・加えて、テント設営を営む補助参加人の従業員は、鉄骨を組み立てて機械でネジ締めし、クレーンでつり上げたテント生地を鉄骨に固定した上、四張のテントをロープで連結し、三五〇kgの重石一四個、二〇〇kgの重石二個を柱に鎖で繋いで本件テントを設置したが、このような設営は、ほかの設営でも行われている通常の方法であり、これまでの設営方法と同じやり方をしたというのである。そうすると、テント設営業者は通常の方法で本件テントを設営したし、そのような設営の方法でこれまで飛散等の不具合が生じたことがなかった上に、設営方法に不備があったこともうかがえない。してみれば、通常行われている方法で設営し、その不備もなかったことから、この点からも、本件テントが通常有すべき安全性を欠いていたと認めることはできない。なお、これらの検討によれば、本件テントは、地面にアンカーボルト等による固定がされていないが、そのことから安全性を欠いていたということはできない・・・さらに・・・強風や突風が予想された場合には、そもそもテントを設営すべきでない。設営するのであれば、これらによって飛散しないような設営をすべきであるが・・・本件テントを設営した時点でも、本件事故前にも、本件事故時に発生した約二九・七m/s程度の突風を予想できたなどとは認められない。したがって、例えば地面に杭を打ち付けて固定するなどして、突風でも飛ばないように設営をしていないことについて瑕疵があるとはいえない。・・・以上の検討によれば、本件テントには、原告らが主張する安全性の欠如があったとはいえず、その設置または保存に瑕疵があったとは認められない
名古屋地判平成27年2月19日
と判示しています。
ここでは、
- テントの耐風性基準に関する、法令上および業界自主規制が存在しないことから、風速20m/sで飛散しないようにテントを設営しなければ設置に瑕疵があるなどとはいえないこと
- 本件テントは突風によって飛ばされており、風速15m/sの風により飛散したとの原告の主張が採用できないこと
- 通常行われている方法で設営し、その不備もなかったことから、本件テントが通常有すべき安全性を欠いていたと認めることはできないこと
- 本件テントを設営した時点でも、本件事故前にも、本件事故時に発生した程度の突風を予想できたとは認められないこと
などから、設置、保存の瑕疵を否定しています。
これにより、裁判所は、甲の民法717条1項と乙の国家賠償法2条1項責任を否定しています。
尚、裁判所は、天候の急変とともに突風が吹いていることなどを理由として、安全配慮義務違反も否定し、原告の請求を棄却しています。
テントに関する瑕疵責任について
この裁判例からしますと、一定程度の重量、土地への固定度合いにより、テントが民法717条1項の「土地の工作物」に該当するかが異なってくるものと考えられます。
一方、テントが風で飛ばされたことによる事故が発生した場合に、テントの設置、管理の瑕疵が認定できるかについては、原因が突風である場合にはハードルが高いものと思われます。