労働施策総合推進法の改正、啓蒙活動、社内教育もあり、パワハラに関する認識は深まってきてはいます。
しかしながら、具体的な行為がパワハラに該当するかの判断は、難しい点もあります。
ここでは、主にパワハラの類型とその具体例について解説していきます。
目次
パワハラの問題点
昭和から平成冒頭に作成されたテレビドラマの再放送がなされますと、出演者のハラスメント言動が目に付くことが少なくありません。
ハラスメントは昔からあったものの、それが問題視されず、社会において当然のように受け入れられていたこともあり、それらの言動が重大な問題(違法行為)であるとの認識が、社内、社会一般において欠如していました。
このことは、ハラスメント問題に、いまだに深刻な影を投げかけていると思われます。
近時では、事業主は、法的にも労働施策総合推進法30条の2第1項により、職場におけるパワハラの防止対策措置を講ずることを義務付けられ、社内においてもハラスメント教育がおこなわれる傾向にあります。
しかし、それでも、中高年を中心に、自らの言動がハラスメント行為に該当することを認識せずに、ハラスメント言動を続ける人もいるようです。
一方、ハラスメント行為に対し、社会の目が厳しくなるにつれ、本来の正当な部下、後輩社員への業務上指導までも、パワハラ問題につながることを恐れ、業務上の指導を忌避する傾向もあるといわれています。
しかしながら、正当な業務指導は上司の職務でもあることから、このような忌避は、上司の職務放棄とも評価しうるものであり、パワハラ問題の正しい解決方法とはいえません。
これらのこともあり、何がパワハラなのかを正しく理解することが、パワハラ防止のためにも重要なことであると思われます。
そのようなこともあり、ここでは、ハラスメントの中のパワーハラスメント(パワハラ)について、どのような行為がパワハラ(パワー・ハラスメント)に該当するかを中心に解説していきます。
パワハラ定義の3要素について
パワハラに関しましては、下記の記事で解説しましたが、労働施策総合推進法30条の2第1項に定義がなされています。
一般的には、その定義を下記のように3つの要素に分解し、すべての要素をみたしたものをパワハラとしています。
そこで、この3つの要素のことを、パワハラ定義の3要素ということもあります。
パワハラ定義の3要素
- 優越的な関係を背景とした言動であって
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより
- 労働者の就業環境が害されるもの
この3つの要素のうち、2番目の要素から、業務上必要な相当な範囲の指導はパワハラに該当しないことがわかります。
パワハラの6類型
パワハラに該当する行為を、厚労省は下記の6類型にまとめています。
しかし、厚労省が、この6類型は代表的な言動の類型であり、限定列挙ではないと明示していることには留意が必要です。
下記の6類型に該当しない言動についても、パワハラに該当することはありえます。
パワハラの6類型
- 身体的な攻撃
- 精神的な攻撃
- 人間関係からの切り離し
- 過大な要求
- 過小な要求
- 個の侵害
身体的な攻撃について
上記1の身体的な攻撃としては、
- 足蹴りする
- 物を投げつける
- 唾を吐きかける
などの暴行、傷害行為などがあります。
この類型の行為は、刑法の暴行罪、傷害罪などに該当しうることもあります。
精神的な攻撃について
上記2の精神的な攻撃としては、
- 人格を否定するような暴言を吐く
- 怒声を浴びせかける
- 限度を超えた叱責を繰り返す
などの言動があります。
このような言動は、刑法の名誉棄損罪、侮辱罪などに該当することもありえます。
人間関係からの切り離しについて
上記3の人間関係からの切り離しとしては、
- ひとりだけ仕事から外す
- 長期間別室に隔離する
- 集団で無視をする
- 仲間はずれにする
などの行為があります。
過大な要求について
上記4の過大な要求としては、
- 到底対応できない水準・分量の仕事を命ずる
- 業務とは関係のない私的な雑事を強制する
ことなどがあります。
過小な要求について
上記5の過小な要求としては、
- 退職に追い込むために意味のない作業を繰り返させる
ことなどが該当します。
個の侵害について
上記6の個の侵害としては、
- 勤務時間外に強制的に飲み会に付き合わせる
- 個人情報を正当な理由なく本人の承諾なしに暴露する
- 業務時間外に行動を監視する
ことなどがあります。
パワハラの責任について
パワハラも程度によっては、暴行罪、傷害罪、名誉棄損罪、侮辱罪、強要罪などの刑法犯に該当することがありえます。
しかし、法的には、労災、損害賠償請求事件として問題となるケースが多いものと思われます。
直接、上記のようなパワハラ行為により、被害を受けた従業員が精神疾患を発症したいうな場合、上司などが不法行為責任を負うとともに、会社も使用者責任、安全配慮義務違反に基づく損害賠償義務を負うことがあります。
労災としては、労働基準法施行規則別表第1の2第9号の「人の生命にかかわる事故への遭遇その他心理的に過度の負担を与える事象を伴う業務による精神及び行動の障害又はこれに付随する疾病」に該当する業務上の疾病として取り扱われることとなります。
そして、労災として認定されるには、①業務遂行性、②業務起因性が認められる必要があります。
労災に関しましては、下記の記事で解説しています。