国家賠償法2条の責任について

※作成時の法律、判例に基づく記事であり、作成後の法改正、判例変更等は反映しておりません。
この記事で扱っている問題

国家賠償法2条の公の営造物の設置保管の瑕疵に関する責任は、民法717条の土地の工作物の瑕疵責任の特則的な性質をもつといわれることがあります。
しかし、双方の対象とされる物の範囲、瑕疵の内容も異なる点があります。

ここでは、国家賠償法2条の条文をみながら、その意義、対象となる物の範囲、瑕疵の判断基準などについて解説します。

国家賠償法2条と民法717条

戦前は、国家無答責の原理により、国に対しては損害賠償請求はできず、戦後の憲法17条を受け制定された国家賠償法により、国に対する損害賠償請求がはじめて可能になったと思われがちです。

確かに、戦前は、国の公権力の行使にともなう損害に関しては、損害賠償請求はできませんでしたが、しかし、被権力的な行政の行為に関しては、民事上、損害賠償請求が認められることもありました。

とくに、土地工作物の瑕疵に関しては、民法717条の適用が認められていました(大判大正5年6月1日参照)。
そのこともあり、戦後の国家賠償法の制定時、民法717条があるので、現在の国家賠償法2条は不要あるとの意見もあったようです。

尚、国家賠償法の制定後も、民法717条適用が認められなくなったわけではありません。

しかし、現在では、下記に解説しますように、国家賠償法2条の対象となる「公の営造物」は、民法717条の「土地の工作物」より幅広い物を対象としているとされています。
また、民法717条では、占有者は一定の場合、損害賠償責任を免れることとなっていますが、国家賠償法2条では、そのような免責はありません。

このように、今日においては、国家賠償法2条の方が、民法717条より幅広い範囲の損害をカバーすることから、国家賠償法2条に該当しうる場合は、民法717条ではなく、国家賠償法2条に基づき損害賠償請求をおこなうのが一般的です。
しかし、国有財産の瑕疵により損害を受けた場合でも、国家賠償法2条が適用されないケースもあり、その場合、民法717条に基づく損害賠償請求を検討することとなります。
更に、実際の訴訟においては、国家賠償法2条と民法717条の請求を、選択的、あるいは予備的に主張し、双方の請求を併合して訴訟提起することも少なくありません。

国家賠償法2条について

国家賠償法2条では、

第二条 道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。
② 前項の場合において、他に損害の原因について責に任ずべき者があるときは、国又は公共団体は、これに対して求償権を有する。

国家賠償法2条

と規定されています。

同条の2項は、求償について規定した条文であり、一般的な損害賠償請求において使われるのは1項となっています。
ここでは、とくにことわりのない限り、国家賠償法2条1項を国家賠償法2条といいます。

国家賠償法2条による損害賠償請求が認められるには、

  1. 原告に法律上保護される権利、利益が存在すること
  2. 公の営造物に該当すること
  3. 被告が設置管理者であること
  4. 設置管理の瑕疵が認められること
  5. 設置管理の瑕疵により原告の権利、利益が侵害されたこと
  6. 損害が発生したこと
  7. 瑕疵と損害の間の因果関係が認められること

といった要件をみたす必要があります。

上記のうち、1、5、6、7に関しては、一般的な損害賠償請求の場合と異ならないことから、ここでは、主に上記の2、3、4について解説します。

公の営造物とは

公の営造物とは、国または公共団体により直接に公の目的に供されている有体物、物的施設のことを意味します。

そこで、公の営造物は、ほぼ公物と同じであると考えられています(ただし、異なる部分もあるとされています。)。

直接に公の目的に供されていること

直接に公の目的に供されていること

上記のように、国家賠償法2条は「公の」営造物を対象としていることから、公の用に供されていない物は含まれないのが原則です。
ところで、国有財産法3条は、国有財産行政財産普通財産にわけ、公の目的に供されるものは、行政財産に含まれるとされています。
しかし、普通財産でも公の営造物と認定された裁判もあり、またその逆もあります。
国家賠償法2条では、公の目的に供されているかは、実質的に判断されることとなります。

特定の物が公の目的に供されているかに関する問題は、下記の記事でも扱っていますが、物のライフサイクルとの関係、あるいは物の一体性から問題となることがあります。

営造物について

民法717条はその対象が「土地の工作物」であることから、建物、構築物といった不動産のように、土地との一定の関連性が必要となります。
しかし、国家賠償法2条の公の営造物には、下記の記事で解説しているように、動産も含まれるとされています。
更に動物も含まれると考えられています。

また、民法717条では、条文上、土地の「工作物」とされていることから、何らかの人工的な手が加えられていることが要求されると考えられています。

一方、公の「営造物」には、公の目的に供されている(一般に公開されている)河川、海浜などの自然公物も含まれ、工作性は必ずしも要求されていません。

設置管理者について

国家賠償法2条では、必ずしも国、地方公共団体が所有権を有している物のみが対象となるわけではありません。

また、国、公共団体に法令上の管理権が存在していなくとも、実質的に管理権が及んでいる場合、国家賠償法2条との関係では、国、公共団体の管理権が認定されることとなります。

これらの点につきましては、下記の記事でも解説しています。

また、地方公共団体も民間の指定管理者に施設の管理を委託することができますが(地方自治法244条の2第3項など参照)、その場合でも、当該地方公共団体は、国家賠償法2条の責任を免れるものではありません。

設置管理の瑕疵について

「瑕疵」に関する学説

なにももって瑕疵というのかについては、客観説、主観説、義務違反説などの学説があります。

しかし、どの学説に基づいても、結論はあまり変わらないといわれています。

瑕疵の判断について

国家賠償法2条の「瑕疵」の有無の判断基準は、最判昭和59年1月26日においても、

・・・国家賠償法二条一項の営造物の設置又は管理の瑕疵とは、営造物が通常有すべき安全性を欠き、他人に危害を及ぼす危険性のある状態をいい・・・
・・・当該営造物の構造、用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的個別的に判断すべきものである・・・

最判昭和59年1月26日

と判示されているように、

瑕疵は「営造物が通常有すべき安全性を欠き、他人に危害を及ぼす危険性のある状態」であると考え、

「当該営造物の構造、用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的個別的に判断」する

と定式化されています。

この瑕疵の認定の個別問題に関しましては、下記の記事で扱っています。

結果責任との相違

国家賠償法2条は無過失責任といわれていますが、結果責任ではなく、不可抗力の事故にまで責任を負うものではないとされています。
そこで、一般的には、瑕疵の認定に際し、

  • 予見可能性
  • 回避可能性

の検討をおこなうこととなります。

この点につきましては、下記の記事で解説しています。

財政的制約について

上記の回避可能性との関係でも問題となりえますが、国、地方公共団体は税収などの収入をもとに予算配分をおこなうことから、必要な工事などを全ておこなうことは事実上、困難であるといいえます。

そこで、予算が足りないことが、瑕疵の認定において考慮されるのかが問題となりえます。

この予算が足りないことを瑕疵の認定に際し考慮することを財政的制約の問題などといいます。

一般的には、未改修の河川に関しては財政的制約が考慮されるとされていますが、改修された河川をはじめ、一般的には財政的制約は考慮されないと考えられています。
しかし、一定範囲で、改修された河川、道路などに関する裁判において、財政的制約が瑕疵の認定に際し、考慮されています。

この点につきましては、下記の記事で解説しています。

被害者の想定外の行動について

上記の瑕疵認定の要素とされている「用法」との関係において、被害者の想定外の行動が瑕疵認定にどのように影響するのかという問題があります。

この点につきましては、下記の記事で解説しています。

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