損害賠償請求を考えたとき、法律相談前に押さえておきたいこと

この記事で扱っている問題

他人に、自分の所有物を壊されたり、ケガをさせられ入院したりした場合、自らに損害が発生している可能性があります。
損害が発生していた場合、損害を与えた第三者に対し、発生した損害を賠償するよう求めることを弁護士に相談することがあります。

ここでは、効率的な法律相談を実現するために、弁護士に相談する前に知っておきたい基礎知識について解説します。

損害賠償金を確保するステップについて

損害賠償金を確保するためには、まず、

A 損害賠償の請求をおこなう

こととなります。

尚、法的には損害賠償請求が不可能であるにもかかわらず、損害賠償請求をすると、場合によっては恐喝行為となりかねないことから、損害賠償を求める前に、弁護士に相談するなどして法的に損害賠償請求が可能であるかの検討をおこなうことをお勧めします。

このような損害賠償の請求は、当初から裁判手続きを利用することも可能ですが、多くの場合、最初から裁判手続きを選択することをせずに、内容証明郵便などの書面を直接請求相手方に送付します。

ここでは、最初に直接相手方へ書面を送付し、損害賠償請求をおこなう場合について考えていきます。

この裁判外の請求に対する相手方の対応としては、

B1 任意に損害賠償金の支払に応じる

B2 請求された損害賠償金の一部の支払のみに応じる

B3 損害賠償金の支払いを拒絶する

ことが考えられます。

B1のケースは、

C1 示談書(和解契約書)を作成し、損害賠償金が少額であれば現金の授受をおこなう

C2 示談書(和解契約書)を作成し、損害賠償金を指定した銀行口座へ振り込んでもらう

ことで一応の解決を得ることができます。

一方、B2のケースあるいはB3のケースでは、

C3 相手方が全額支払うよう交渉を継続する

C4 損害賠償請求(あるいはその一部)をあきらめる

C5 裁判手続きに移行する

といった対応を検討していくこととなります。

続いて、C5の裁判手続きに移行する場合に検討を要する事項を解説していきます。
尚、当初からC5の裁判手続きを選択する場合、下記の事項から検討していくこととなります。

裁判手続きについて

損害賠償請求に関する裁判手続きといいますと、民事訴訟を思い浮かべる方が多いものと思われます。

しかし、裁判手続きとしては、民事訴訟以外にも民事調停により解決を図る方法もあります。
民事調停は、基本的には当事者の話し合いの解決となります。

更に、裁判手続きとしては、損害賠償請求権の存在は認められているものの、相手方が任意に支払わない場合に支払を確保する手段である民事執行手続などがあります。

上記のC5の損害賠償請求の代表的な裁判手続きは民事訴訟であり、場合により民事調停を検討することとなります。

続いて裁判手続きにより損害賠償請求をおこなう際に検討する事項について解説していきます。

裁判手続きで損害賠償請求をおこなう際の思考の整理について

裁判手続き(主に民事訴訟)による損害賠償請求を選択する場合、損害賠償請求が可能であるかの検討に際し、思考の整理として気にかけておきたいことがあります。

裁判手続き(とくに民事訴訟手続き)により損害賠償請求を実際になし得るかは、次の3つの局面にわけて考察を加え、整理するのがよいものと思われます。

  • 法的な損害賠償請求権の存否
  • 証拠に基づく証明の可能性
  • 損害賠償金の実際の確保

法的な損害賠償請求権の存否

民事訴訟により、損害賠償請求が認められるには、法的に損害賠償請求権が成立していることが前提となります。
この損害賠償請求権が成立するには、損害賠償請求権の発生根拠となる法律の条文にあてはまることが必要となります。

損害賠償請求権の発生根拠となる法律の条文の代表的なものとして、民法709条があります。
民法709条の条文は、次のようなものです。

(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

民法709条

この条文では、

  1. 権利または法律上保護される利益の存在
  2. 上記への相手方の侵害行為
  3. 2について相手方の故意または過失
  4. 損害の発生
  5. 2と4の間の因果関係
  6. (2が違法であること)

という要件をみたした場合に、同条に基づく損害賠償請求権が発生します。

このように、損害賠償請求権の発生根拠となる条文の要件をみたすことが損害賠償請求の前提となります。

証拠に基づく証明の可能性

しかし、観念的に損害賠償請求権の発生根拠となる条文の要件をみたし、損害賠償請求権の発生が観念的には認められるとしても、相手方が争えば、原則として損害賠償を請求する側が、要件をみたしていることを証拠に基づき証明する必要があります。

証拠をもって証明することができなければ、観念的に損害賠償請求権が発生すると考えられても、訴訟上は、損害賠償請求権の発生は認められず、損害賠償請求はできないこととなります。

ここで問題となるのは、一応、証拠があったとしても、裁判所がその証拠の証明力(裁判官が、証明対象となる事実の認定に、その証拠がどの程度役立つと考えるか)をどの程度に評価するにより、その証拠により証明が可能となるか否かが変わってくることです。

類型的には、訴訟当事者の供述の証明力は低く、書証の証明力は高いものと考えられます。

突発的な事故などでは、証明力の高い証拠が存在しない場合も珍しくなく、観念的には損害賠償請求権の発生を考えることができても、有効な証拠を欠く場合は少なくありません。

そのような場合、残念ながら、訴訟上は損害賠償請求は認められない可能性が高くなります。

このように、条文上、観念的には損害賠償請求権が発生していると考えられても、証明力の高い証拠を欠くため訴訟上損害賠償請求が認められないケースもあります。
そのため、法的な損害賠償請求権の発生と、証拠により証明できるかの問題は区別して考えることが、思考の整理に役立つものと思われます。

もちろん、損害賠償請求の可否を検討する際、これらは互いに関連、あるいは区別が困難な場合も少なくないことから、必ずしも明確に区別して考えることが可能であるとはいえません。

損害賠償金の実際の確保

ところで、民事訴訟において損害賠償請求を認容する(認める)判決が下されても、権利侵害者(被告)が任意に支払わない、あるいは支払い能力のない場合もあります。

前者の任意に支払わない場合、民事訴訟の判決が確定したのちに、強制執行手続などを検討していくこととなります。

一方、権利侵害者(被告)に支払能力のない場合、損害賠償請求に認容する判決を得たとしても、実際に損害賠償金を確保することは困難な状態となります。
このような場合、事案によっては、裁判費用が持ち出しとなることとなります。
そうしますと、民事裁判手続きをとることにより、損害を拡大することにもなりかねず、場合によっては、損害賠償請求を断念することも検討する必要があります。

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