派遣先から契約解除されると同時に解雇されるのでしょうか?

※作成時の法律、判例に基づく記事であり、作成後の法改正、判例変更等は反映しておりません。
この記事で扱っている問題

派遣労働者が派遣先の会社で契約解除したので来なくてよいといわれた場合、同時に派遣元の会社から解雇されるのでしょうか。

ここでは、派遣労働者をとりまく契約関係の概要について触れた上で、労働者派遣の当事者である派遣元と派遣先の間の契約関係、派遣元と派遣労働者の間の契約、派遣先と派遣労働者の間の法的関係に触れながら、派遣先が契約解除したときの派遣労働者に対する法的な影響について解説します。

派遣労働者をとりまく契約関係の概要

派遣労働者は、派遣先企業の事業所内、派遣先の役職者、担当者などの指揮命令に従い働くこととなります。
しかし、派遣労働者は、派遣を開始する際、派遣先ではなく派遣元の会社との間で契約を結ぶこととなります。
このように、派遣労働者からみますと、勤務の実態と契約を結ぶ相手方が異なっています。

この点について考えるに際し、派遣労働者が勤務する際の契約当事者を確認しておきます。
この契約当事者としては、派遣労働者派遣先派遣元の三者をあげることができます。

そして、契約関係としては

  • 派遣元と派遣先の間において労働者派遣契約
  • 派遣元と派遣労働者の間において派遣労働契約

が締結されることとなります。

この2つは契約主体も異なる別の契約となり、それぞれ、派遣労働法、労働基準法、労働契約法などの労働法が適用され、労働法に抵触する契約は許されません。

尚、派遣労働としては、

登録型派遣
派遣元に事前に登録しておき派遣先が決まったときに派遣元と派遣労働者の間で有期労働契約を締結するもの

常用型派遣
派遣元と派遣労働者の間で無期労働契約が締結されており、派遣元が派遣先との間で労働者派遣契約を締結すると既に無期労働契約を締結している派遣労働者を派遣するもの

の2種類があります。

労働者派遣契約とは

労働者派遣法における労働者派遣契約の定義

労働者派遣に関する法律としては「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」(以下「労働者派遣法」といいます。)がありますが、同法26条において、

労働者派遣契約
当事者の一方が相手方に対し労働者派遣をすることを約する契約

と定義されています。

この契約に基づき、派遣元は、自らが派遣先との間で派遣労働契約(下記で解説しています。)を締結し、その派遣労働者を派遣先に派遣することとなります。

尚、労働者派遣法26条では、労働者派遣契約に定めなければならない事項を規定しています。

派遣先の派遣労働者に対する指揮命令権の源泉

有力説によれば、派遣元は、派遣労働者と労務供給契約を締結し、その労務供給契約の内容として取得する派遣労働者に対する指揮命令権を、派遣先との間の労働者派遣契約基づき、派遣先に譲渡すると考えられています(諸説あります。)。
この有力説の見解によれば、派遣元の指揮命令権が派遣先に譲渡されることにより、派遣先は派遣労働者に対し、業務に関する指揮命令権を取得することとなります。

この有力説からは、派遣先は派遣労働者との間に直接の契約関係がないにもかかわらず、派遣労働者に対する指揮命令権を有することを無理なく説明しえます。

派遣労働契約とは

上記において言及しましたが、派遣元は、派遣労働者との間で労務供給契約を締結することとなりますが、その契約を派遣労働契約といい、次のような契約といいえます。

派遣労働契約
派遣労働者が派遣元に対し、派遣先の指揮命令に従い労働することを約し、派遣元が派遣労働者に対して賃金を支払うことを約することにより成立する契約

前述のとおり、派遣労働契約は

  • 登録型派遣 → 期間の定めのある労働契約(有期労働契約)
  • 常用型派遣 → 期間の定めのない労働契約(無期労働契約)

となり、各々の契約形態として、労働法による制限を受けることとなります。

派遣先の契約解除の意味と法的効果について

労働者派遣に関しては、派遣先は派遣労働者との間で直接の契約関係にはないことから、派遣先の契約解除とは、派遣元との間の労働者派遣契約の解除のこととなります。

一方、派遣労働者の派遣労働契約は派遣元との間の別の契約であり、派遣先の労働者派遣契約の解除から、直接的に派遣労働契約の解除の効力が生じることがないのが原則です。

そこで、常用型派遣においては、労働者派遣契約が解除されても、直接的には派遣労働契約の解除の効力は生じません。
このとき、派遣元が派遣労働者を解雇することにより派遣労働契約を終了させることが考えられますが、解雇に関しては、派遣労働以外の一般的な期間の定めのない労働契約(無期労働契約)と異なるものではなく、労働契約法16条による制限をうけることとなり、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」解雇は無効となります。

また、登録型派遣においても派遣労働以外の一般的な期間の定めのある労働契約(有期労働契約)と同様に労働契約法により解雇に関する制限はありますが、登録型派遣では、常用型派遣より制限が厳しく、同法17条1項により、契約期間満了前の解雇に関しては、「やむを得ない事由がある場合でなければ」無効となります。

この点につきましては、下記の裁判例(津地判平成22年11月5日)が参考になります。

尚、派遣先と派遣労働者との間で、派遣労働契約において、派遣労働契約が解除されたときには即時解雇するとの特約が設けられていても、同法17条1項の制限は緩和されず、解雇されたときに即時解雇するとの条項を定めても、やむを得ない事由を欠く解雇は無効となりうると考えられています。

しかし、登録型派遣は契約期間に期限があることから、契約期間満了時に、派遣労働契約の更新をおこなわず、派遣労働契約を終了させるのが一般的であると思われます。しかし、その場合でも雇止めの問題が別途生じることがあります。

尚、解雇一般に関しては下記の記事で解説しております。

登録型派遣契約の解雇の有効性が問題となった裁判例

事案の概要

登録型派遣の契約期間満了前の解雇の有効性が問題となった裁判としては、津地判平成22年11月5日があります。

この事件は、派遣元と派遣労働者の間において「派遣労働者の責に帰すべき事由によらない派遣契約の解除が行われた場合には、派遣先と連携して新たな就業機会の確保を図ることとする。」との特約を付した派遣労働契約が締結され、その後更新がなされたのちに、派遣先から労働者派遣契約を解除された派遣元が派遣労働者を派遣労働契約満了前に解除したところ、派遣労働者が解雇は無効であるとして未払い賃金などの支払いを求めて訴訟を提起したものです。

裁判所の判断

裁判所は、この事件において、解雇の有効性について次のように判断しています。

・・・本件雇用契約が期間の定めのある雇用契約であることは,当事者間に争いがない。期間の定めのある雇用契約は,「やむを得ない事由」がある場合に限り,期間内の解雇(解除)が認められ・・・
・・・本件雇用契約は,いわゆる登録型派遣労働契約とよばれるもので・・・あらかじめ派遣労働者が派遣元事業者に登録して,派遣元に対する派遣先事業者からの求人に応じて,その都度派遣元との間で派遣労働契約を締結し,派遣先のもとで一定の期間労務に従事するもので・・・派遣元と派遣先との間の派遣契約期間との間の派遣契約期間と派遣労働者と派遣元との派遣労働契約期間とが通常対応する・・・
・・・この登録型派遣労働契約の場合であっても,事業者間の派遣契約と,派遣労働者と派遣元との間の労働契約である派遣労働契約は別個の契約で・・・派遣労働者と派遣元との間の派遣労働契約との間の派遣労働契約も労働契約の一形態であるから,その労働条件は,労働契約の内容によって定まることは明らかであり,解雇の場合も同様である・・・
・・・そうすると,登録型派遣労働契約であって,派遣契約が期間内に終了した場合であっても,「やむを得ない事由」がある場合に限り,期間内の解雇が認められることは当然であり,派遣労働契約は労働法規によって規律されるものであること,労働者は検討その他の法令に登録型派遣労働契約における契約終了事由について特別の定めがないこと,労働者の意思に基づかない労働契約の終了,すなわち解雇は,労働者に対して不利益をもたらすものであることに照らせば,登録型派遣契約の解雇についても,一般の労働契約の場合と何ら異なるものではなく,当該労働者に関する派遣契約の終了が当然に派遣労働契約の終了事由となると解するべきではない・・・

津地判平成22年11月5日

として、解雇は無効であると判断しています。

この裁判例では、登録型派遣契約の解雇においても労働者派遣契約の終了が当然に派遣労働契約の終了事由となるものではないとしています。

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