会社員が会社の出勤日を自分の意思で欠勤すると、その欠勤分の給与は多くの場合カットされることとなります。
このように、労働者が自らの意思で労務の給付をおこなわない場合、反対給付である賃金も支払われないのが原則とされており、その原則のことをノーワーク・ノーペイの原則といいます。
しかし、労務の提供をおこなわないと、どのような場合でも、ノーワーク・ノーペイの原則にしたがい、必ず賃金カットされるわけではありません。
ここでは、ノーワーク・ノーペイの原則の意味、根拠、適用範囲などについて、関連条文、判例などをみながら解説します。
ノーワーク・ノーペイの原則とは
使用者の責めに帰すべき事由によらず、労務が提供されない場合、反対給付である賃金は支払われないのが原則であり、そのことをノーワーク・ノーペイの原則といいます。
ここで問題となる賃金の支払根拠は、使用者と労働者の間の労働契約なのですが、労働契約に関する基本的事項を定めた労働契約法の第6条は、
(労働契約の成立)
労働契約法6条
第六条 労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。
とされており、労働者の労務提供と使用者の賃金支払いが対価関係にあることを規定しています。
この労働契約法6条から、ノーワーク・ノーペイの原則が導きだされると考えられています。
ノーワーク・ノーワークの原則の適用範囲について
ところで、民法536条では、
(債務者の危険負担等)
民法536条
第五百三十六条 当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。
と規定されています。
このことから、
(労務の債権者である)使用者の責めに帰すべき事由によって、労働者が労務提供することができなくなったときは
労務を提供していなくとも、労働者は使用者に対し、賃金の支払いを請求することができる
こととなります。
したがって、
労務提供ができなくなった(労務提供義務が履行不能となった)理由が、「使用者の責めに帰すべき事由」であるかにより、実際に労働しなかった本来の就業時間に対する賃金支払請求権の存否が異なる
こととなります。
また、労働契約により、ノーワーク・ノーペイの原則と異なる規定を設けた場合、場合によりノーワーク・ノーペイの原則が適用されないこともあります。
賃金カットの対象範囲について
ノーワーク・ノーペイの原則から賃金カットが問題となる局面としては、ストライキ時の賃金カットの対象範囲の問題があります。
特に、基本給以外の家族手当・住宅手当などの手当、賞与などが賃金カットの対象となるのかが問題となり得ます。
賃金のカットの範囲に関する判例
労働組合の組合員らが、ストライキ時にカットされた家族手当の支払いを会社に求めた事件の上告審(最判昭和56年9月18日)において、最高裁は、
原審は・・・家族手当の削減が労働慣行として成立し、それがすでに被上告人らとの労働契約の内容となつているものとは認めえないとし・・・本件の場合に家族手当を削減することは、労働基準法三七条二項及び本件賃金規則二五条の規定の趣旨に照らしても著しく不合理で・・・たとえ会社側が一方的に家族手当の削減を継続してきた事実があつても、これによつて適法かつ有効な事実上の慣行として是認することはできない、と判断している。
最判昭和56年9月18日
しかしながら・・・上告会社の・・・においては、ストライキの場合における家族手当の削減が昭和・・・年頃から昭和・・・月までは就業規則(賃金規則)の規定に基づいて実施されており・・・賃金規則から右規定が削除されてからも、細部取扱のうちに定められ、上告会社従業員の過半数で組織された・・・労働組合の意見を徴しており・・・その後も同様の取扱いが引続き異議なく行われ・・・ストライキの場合における家族手当の削減は、上告会社と被上告人らの所属する長船労組との間の労働慣行となつていたものと推認することができるというべきで・・・右労働慣行は、家族手当を割増賃金の基礎となる賃金に算入しないと定めた労働基準法三七条二項及び本件賃金規則二五条の趣旨に照らして著しく不合理であると認めることもできない。
として、控訴審の判決を破棄、自判し、被控訴人ら(1審原告、被控訴人)の請求を棄却しています。
この判決では、家族手当がノーワーク・ノーペイの原則により賃金カットの対象となるのかは、就業規則の規定、労働慣行などから判断されるとし、一律に賃金カットの対象となるのかが明らかになるものではないとしています。