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団体行動権の法的根拠について
憲法28条では、
第二十八条 勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。
憲法第28条
と定められ、いわゆる労働三権として労働者の団結権、団体交渉権および団体行動権が保障されています。
そして、この憲法上の保障は
- 労働組合法
- 労働関係調整法
- 国家公務員法
- 地方公務員法
などの法律により具体化されています。
団体行動権の意味について
まず、団体行動権には、ストライキなどをおこなう「争議権」とともに、争議権および団体交渉権を除く労働組合の諸活動をおこなう「組合活動権」が含まれていると考えられています(本記事では、特にことわりのない限り「団体行動権」を「争議権」と同義で使用することとします。)。
団体行動権保障の効果について
3つの効果について
団体行動権が保障されることにより生じる効果としては
- 刑事上の免責
- 民事上の免責
- 不利益取り扱いの禁止
の3つを挙げることができます。
刑事免責について
争議行為の態様によっては、参加している労働者の具体的行為が、刑法上の不退去罪、威力業務妨害罪などの構成要件に該当する(それらの刑法罰に該当しうる)可能性はあります。
しかし、団体行動権の保障を受ける場合、それらの行為に関しても正当行為(刑法35条)として違法性が阻却され刑事上の罪を問われないこととなります。
民事免責について
争議行為の態様によっては、指導者のストライキ指示が会社の営業活動を阻害する不法行為、ストライキ参加者の不就労が労働契約上の労務提供義務違反などに該当し、労働者および労働組合に不法行為責任、債務不履行責任などが生じる可能性があります。
しかし、団体行動権の保障を受ける場合、不法行為責任、債務不履行責任(に基づく損害賠償義務)を免れることができます。
この点につきましては、労働組合法8条にも、
(損害賠償)
労働組合法第8条
第八条 使用者は、同盟罷業その他の争議行為であつて正当なものによつて損害を受けたことの故をもつて、労働組合又はその組合員に対し賠償を請求することができない。
と規定されています。
不利益取り扱いの禁止について
争議行為の態様によっては、労働者の不就労などの行為が形式的に就業規則の懲戒事由に該当する可能性などがあります。
しかし、団体行動権の保障を受ける場合、争議行為に基づく行為を理由とした懲戒処分は無効となります。
この点につきましては、労働組合法7条1項に、
(不当労働行為)
労働組合法第7条1項
第七条 使用者は、次の各号に掲げる行為をしてはならない。
一 労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、若しくはこれを結成しようとしたこと若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもつて、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること又は労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすること。ただし、労働組合が特定の工場事業場に雇用される労働者の過半数を代表する場合において、その労働者がその労働組合の組合員であることを雇用条件とする労働協約を締結することを妨げるものではない。
と規定されています。
団体行動権保障の限界について
この団体行動権も無制限に保障されるのではありません。
憲法上の人権という点からは公共の福祉による制限がありうることとなります。
また、下記の労働組合法1条2項および8条は次のように規定しています。
(目的)
第一条 (第1項省略)
2 刑法(明治四十年法律第四十五号)第三十五条の規定は、労働組合の団体交渉その他の行為であつて前項に掲げる目的を達成するためにした正当なものについて適用があるものとする。但し、いかなる場合においても、暴力の行使は、労働組合の正当な行為と解釈されてはならない。(損害賠償)
労働組合法
第八条 使用者は、同盟罷業その他の争議行為であつて正当なものによつて損害を受けたことの故をもつて、労働組合又はその組合員に対し賠償を請求することができない。
このように、労働組合法1条2項が「正当性」のある団体行動に限り刑事免責を認め、同8条が「正当性」のある争議行為に限り民事免責を認めているように、団体行動全て、無制限に刑事免責・民事免責が認められているのではありません。
「正当性」の認められる団体行動とは
団体行動権の認められている理由は
もともと交渉力において労働者は使用者に劣位することが多く、労働条件の対等決定が困難となりがちなところ、団体行動の圧力により労働条件の対等決定を団体交渉により実現することを目的としているものと考えられます。
つまり、もともと使用者と労働者では交渉力に格差があるところ、団体行動の圧力という力(武器)を労働者側に与えることにより、両者の交渉力の均衡を図り、結果、労働条件の対等決定を団体交渉により実現しようとしているといえます。
この考えからすると、団体行動権が保障される範囲、つまり「正当性」のある団体行動であるかは、当該団体行動が、労働条件の対等決定を団体交渉により実現するものであるか否かで判断されることとなります。
つまり、「労働条件の対等決定を団体交渉により実現するもの」であるか否かが、当該団体行動が正当性を有するものであるか否かの限界を画するといいえます。
正当性の判断について
判断の4つの検討・判断側面について
この「正当性」の判断は、
- 主体
- 目的
- 手続
- 態様
の4つの側面から検討・判断されると考えられています。
正当性が問題となるケース
主体の問題
労働組合法5条2項は労働組合の規約の要件を規定していますが、この規定を欠く労働組合に関しても憲法28条の団体行動権の保障は及びます。
しかし、組合員の一部が組合の機関決定に基づかずにおこなう山猫ストは保障が及ばないと考えられています。
目的の問題
上記の通り「労働条件の対等決定を団体交渉により実現するもの」として団体行動権が考えられていることから、団体交渉の対象となりえないことを目的とする争議には団体行動権の保障は及ばないこととなります。
この点に関し、政治スト、同条スト、支援ストなどが問題となり得ますが、その全部について正当性が否定されるわけではありません。
手続きの問題
団体行動権が上記のとおり団体交渉を実現するためのものと位置づけられていることから、団体交渉をおこなったうえで争議をおこなうことが求められることとなります。
労働組合からの具体的要求に対し使用者が団体交渉自体を拒否したか、あるいは要求に対し拒否回答をおこなった場合でなければ、原則として正当な争議は認められません。
態様の問題
労働者からの労務の不提供という消極的態様については原則として正当性が認められますが、使用者の財産権を積極的に侵害する行為、暴力行為に関してはその正当性が否定されることとなります。