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墓地・墓石の問題
墓地、墓石は相続財産として遺産分割の対象となるのでしょうか。
もし、遺産と考えるのであれば、相続人が複数いる場合、墓地・墓石をどのように分けるのでしょうか。
墓石と墓地は法律上どのように位置づけられるのでしょうか
墓石は法律上どのように位置づけられているのでしょうか
墓石のようなものは「祭祀財産(さいしざいさん)」と言います。
民法897条では、この祭祀財産に関して、
(祭祀に関する権利の承継)
民法897条
第八百九十七条 系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。
2 前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。
と規定されています。
この第1項の「墳墓」に墓石が含まれることには問題がありません。
そこで、同項により、墓石も法律上は相続財産に含まれず、祭祀主宰者が承継するとされていることになります。
墓地も祭祀財産に含まれ遺産分割の対象から外れるのでしょうか
一方、墳墓の土地、所謂墓地が「墳墓」に含まれるかについては争いがありますが、一般的には墓地も「墳墓」に含まれ、祭祀財産であり相続財産には含まれないと考えられています。
遺産分割に伴い、墓地の所有権が相続財産なのか祭祀財産なのかが争われた事件の控訴審(広島高判平成12年 8月25日)において、裁判所は、
本件土地は墓地であり・・・民法八九七条一項は、「系譜、祭具及び墳墓の所有権は、……祖先の祭祀を主宰すべき者がこれを承継する。」と規定しているところ、墓地が墳墓として祭祀財産となるか否かが問題となる。墳墓は、遺骸や遺骨を葬っている設備である、いわゆる墓石等をいい、墓地は、その墳墓を所有するための敷地であるので、墳墓と墓地とは、一応、別の客体ということができる。しかしながら、墳墓が墳墓として遺骨などを葬る本来の機能を発揮することができるのは、墳墓の敷地である墓地が存在することによるのであって、墳墓がその敷地である墓地から独立して墳墓のみで、その本来の機能を果たすことができないことを考慮すると、社会通念上一体の物ととらえてよい程度に密接不可分の関係にある範囲の墳墓の敷地である墓地は、墳墓に含まれると解するのが相当である。したがって、墳墓と社会通念上一体の物ととらえてよい程度に密接不可分の関係にある範囲の墳墓の敷地である墓地は、民法八九七条に規定する墳墓として祭祀財産と解される。
そこで、本件土地につき祭祀財産と認められる範囲を検討すると、前説示のとおり、墳墓に含まれる墓地の範囲は、墳墓と社会通念上一体の物とみてよい程度に密接不可分の関係にある範囲に限られるから、墓地のうち墓石等の墳墓が存在せず、祖先の祭祀と直接の関係が認められない墓地部分は、祭祀財産には属しないものというべきである・・・土地は、約九二平方メートルの土地部分とその余の土地部分とにより構成され、その約九二平方メートルの土地部分に・・・歴代の墓石及び・・・家の墓石等が複数点在しており、その墓石は、別紙図面の・・・にそれぞれ設置されていることが認められる。右認定事実によれば、・・・墳墓は、本件土地のうち別紙図面の墓所・・・の土地部分に存し、その余の土地部分には墳墓が存しないことが認められるから、墳墓と社会通念上一体の物とみてよい程度に密接不可分の関係のあると認められる墓地の範囲は、・・・の範囲内の土地と認めるのが相当である。
広島高判平成12年 8月25日
したがって、本件土地のうち、右墓所・・・の範囲内の土地は祭祀財産と認めることができ、その余の土地は祭祀財産ではなく、被相続人・・・の相続財産として、本件相続人らの共同相続の対象となる財産と認められる。
と判示しています。
この判決では、判決文の上記引用前段部分において、祭祀財産に該当することが条文上からも明確な墓標・墓石との機能的一体性から墓地も祭祀財産に含まれるとしています。
墓石の置かれ墓地とされている土地は全体が祭祀財産となるのでしょうか
ただし、その理由付けからも、祭祀財産のとなる墓地の土地部分は、墓石などと密接不可分となっている範囲であると上記の裁判例でもされています。
そして、この事件の判決のように、墓石が設置されている土地が広大で、いわゆる「お墓」として利用されている土地部分がその一部であったような場合には、実際に「お墓」として利用されている範囲の土地が祭祀財産となり、その他の土地部分は相続財産となると考えられます。
祭祀財産としての墓地としては、所有権の他、墓地使用権も含まれるとされています。
墓地・墓石は誰が承継するのでしょうか
これらのことから、墓地と墓石は遺産分割の手続きとは別に祭祀主宰者が承継することとなります。
この祭祀主宰者は、被相続人が指定した場合は指定された人、指定していなかった場合はその地方の慣習により、慣習が定かでないときは家庭裁判所の審判により決められることとなります。
尚、被相続人の祭祀主宰者の指定は遺言による必要はありません。
このように、墓地・墓石が相続財産に含まれないことから、相続放棄をした人も、祭祀主宰者となることは出来、墓地・墓石を承継することは可能です。
祭祀財産には他に何が含まれるのでしょうか
上記に引用しました条文から、祭祀財産としては、①系譜、②祭具、③墳墓の3種類があることが分かります。
①系譜とは、家系図のように先祖代々の系統を表示したものをいいます。
②祭具には、位牌、仏壇、仏具、神棚などが含まれます。
したがって、上記で述べました、墓地・墓石とともに位牌、仏壇なども祭祀財産に含まれ、相続財産とは別に祭祀主宰者が承継することとなります。
③墳墓は、上記で述べましたように、墓石、墓標のほか、墓石などと密接不可分となっている範囲の土地(墓地)も含まれます。