過半数代表者と就業規則変更

※作成時の法律、判例に基づく記事であり、作成後の法改正、判例変更等は反映しておりません。

就業規則変更時の疑問

不透明な就業規則変更手続きの問題

Aさんの会社には労働組合がないため、就業規則の変更に際しては従業員の過半数代表者の意見聴取がなされています。
しかし、従業員の過半数代表者はAさんたち一般の従業員が知らないところで、いつの間にか会社の人事担当が従業員の中から適当に決めているようです。
先日も、人事が決めた従業員の過半数代表者の意見聴取に基づき、知らないうちに就業規則が変更されていました。
このような就業規則の変更はどのように考えればよいのでしょうか。

過半数代表者の意見聴取について

下記のように、Aさんの会社の過半数代表者とされる人は民主的な方法で選出されていないことから、法的には過半数代表者とはいえません。
そこで、会社は、意見聴取のプロセスを欠いて就業規則を変更したこととなります。

しかし、意見聴取を欠く変更も必ずしも無効となるわけではなく、変更の有効性は諸事情に鑑み判断されることとなります。

就業規則の変更に必要な手続き

就業規則の作成について

常態として10人以上が雇われている会社では、就業規則を作成し、所轄の労働基準監督署長へ届出することが義務づけられています。
しかし、その10人以上とは必ずしも正社員が10人以上というわけではありません(労働基準法89条、労働基準法施行規則49条1項参照)。
契約社員であっても勤務実態によってはこの10人の人数の算定に含まれます。

就業規則の変更手続きについて

次に、就業規則の作成、変更には、過半数労働組合があればその意見聴取を、無い場合には従業員の過半数代表者意見聴取をする必要があります。
会社は、過半数代表者の意見書を添付し、就業規則の作成、変更の届出を所管の労働基準監督署長へおこなうこととなります(労働基準法90条)。

Aさんの会社には労働組合がありませんので、就業規則の変更に際し、従業員の過半数代表者の意見を聴取する必要があることとなります。

尚、ここでいう意見聴取には協議をしたり同意を求めることまでは要求されていません。
過半数代表が反対しても意見聴取をおこなったこととなり得ます。

過半数代表者の選出方法

それでは、従業員の過半数代表者はどのようにして決めなければならないのでしょうか。

過半数代表者については、労働基準法施行規則6条の2第1項に

一 法第四十一条第二号に規定する監督又は管理の地位にある者でないこと。
二 法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出された者であつて、使用者の意向に基づき選出されたものでないこと。

労働基準法施行規則6条の2第1項

との規定があります。

このように、法令上、従業員の過半数代表者は、管理監督者でない従業員の中から投票、挙手等の民主的な方法で選出する必要があります。

しかし、Aさんの会社の場合、投票、挙手等の民主的な方法で選出したとは言えません。
そこで、Aさんの会社において「従業員の過半数代表者」とされ、就業規則改定に際して意見聴取された従業員は、法的には従業員の過半数代表者とは言えないことになりそうです。

そこで、Aさんの会社で意見聴取された人が法的には過半数代表者と言えないとすると、Aさんの会社の就業規則変更には意見聴取の手続きに瑕疵があることとなります。
そうしますと、法的には意見聴取をせずに就業規則改定をおこなったということとなりそうです。

意見聴取をしていない就業規則変更の有効性

それでは、意見聴取のプロセスを踏んでいない就業規則変更も有効なのでしょうか。

これに関しては、東京地判平成27年2月18日において、

就業規則の変更にあたっては,従業員代表の意見聴取,労働基準監督署への届出がなされていることが望ましい(労契法11条,労基法90条)ものの,就業規則の変更の有効性を認めるための絶対的な条件であるとはいえず,これらの事情は,労契法10条における「その他の就業規則の変更に係る事情」として,合理性判断において考慮される要素と解され・・・

東京地判平成27年2月18日

と判示されています。

このように、意見聴取のプロセスを欠いてなされた就業規則変更が即無効と考えられているわけではありません。
他の事情と併せ鑑みて就業規則変更の有効性が判断されることとなります。

したがいまして、Aさんの会社の改正後の就業規則も無効であると言い切ることはできないこととなります。

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