残業と割増賃金
Aさんの勤務する会社の就業規則では土曜・日曜・祝日が休日とされ、勤務時間は9時~17時ですが、12時~13時までは昼休みとされています。
先週は土曜日の9時に休日出勤し、お昼に1時間休み、17時に帰りました。また、木曜日の今日も18時まで残業しました。
来月の給料日には今月の残業代が支払われるので、残業代で登山用の新しいサングラスを買おうと楽しみにしています。
今日、友人と話をしていたところ、どうやら残業すると割増賃金というものがあるらしいので、最近山で熊の出没が増えていることから買い替えたいと考えていた熊鈴も割増賃金で買えるかもしれないと期待が膨らんでいます。
このAさんの割増賃金への期待はかなえられるのでしょうか。
残念ながら、今回のAさんの場合、下記のことから、土曜日の出社は法定外休日の出社となり、本日の残業は所定時間外労働の範囲の残業となりますので、割増賃金の対象とはなりません。
割増賃金について
ところで、Aさんが友人から聞いた割増賃金とは、一定の残業・休日出勤において、通常の労働時間の賃金(月給制の場合、月給をひと月あたりの平均所定労働時間で割って計算します。)に加え、その一定割合を上乗せして支払われるものです。
例えば、通常の労働時間の賃金の時間単価が2000円の人に25%の割増賃金が支払われる場合、実際には1時間2500円が支払われることとなります。
時間外労働と所定時間外労働
Aさんの期待を検討するに際し、まず、Aさんが本日残業した残業代の割増賃金について考えてみます。
日常会話では、会社が定めた勤務時間以外に勤務することを残業ということが多いのですが、残業も法律上は2種類に分かれます。
労働基準法により、原則として1日の労働時間は8時間が上限とされており、この8時間を法定労働時間といいます。尚、この8時間とは休憩時間を除く時間のこととなります。
会社は、この1日8時間の法定労働時間を超えて従業員を勤務させることは出来ないのが原則です。しかし、36協定を締結することにより、1日に8時間を超えて勤務させることが可能となるため、多くの会社では36協定を締結、届け出ており、8時間を超えた勤務が発生しています。
そして、この法定労働時間を超えた勤務を“時間外労働”といいます。
一方、会社の就業規則等で決まっている勤務時間のことは所定労働時間といい、その所定労働時間を超えた残業のことは“所定時間外労働”といい、この2つは法律的には区別されて扱われます。
割増賃金は、時間外労働が発生した時に支払われることとなります。
Aさんの場合、本日18時まで残業しましたが、お昼休みを1時間とっていましたので、休み時間を除いた勤務時間は8時間となります。そこで、所定時間外労働は1時間ですが、時間外労働は発生していないこととなります。
したがって、本日は時間外労働が発生していませんので、Aさんは割増賃金の支払いを受けることはできません。
しかし、1時間の所定時間外労働が発生していますので、特に残業に関する規程がなければ、通常の労働時間の賃金1時間分が残業代として支払われることとなります。
休日出勤と割増賃金
法定休日と法定外休日
次にAさんが先週の土曜日に出勤した際の休日出勤の割増賃金について考えてみます。
まず、日常用語では会社の定めた休日に出勤することを“休日出勤”と言います。
しかし、法律上は所謂“休日”を2つに分けて考えます。
まず、法律上定められた最低限の休日を“法定休日”と言い、それ以外に会社が定めている休日を“法定外休日(所定休日)”と言います。
労働基準法により、原則として、最低週1回の休日を会社は設ける必要がありますので、週休2日の会社であれば、休日の内1日が“法定休日”であり、もう1日は“法定外休日”ということになります。
割増賃金の対象となる休日労働
法律上は“休日労働”には割増賃金の支払いが必要となりますが、この休日労働とは法定休日に働いた場合のことであり、法定外休日に働いた場合は休日労働とはなりません。
そこで、法定外休日に働いた場合、法律上は休日労働に対する割増賃金支給の必要性はないことから、通常の賃金しか支払われないこととなります。
週休2日の場合、就業規則等でいずれの休日が法定休日であるかを定めていることが多いと思われます。
そこで、Aさんが就業規則を確認したところ、日曜日が法定休日となっていました。
したがって、Aさんの先週の土曜出勤は法定外休日(所定休日)の出勤であったこととなり、休日労働としての割増賃金の支払いを受けることは出来ません。
Aさんの割増賃金について
残念ながらAさんの休日出勤及び平日の残業は割増賃金の対象にはなりません。
しかし、働いた時間に対しては通常の労働時間の賃金は支払われますので、サングラスを少し安いものにすれば熊鈴の良く鳴るものも買えるかもしれません。