台風、地震などの自然災害が原因で会社が休業となった場合、給与は支払われるのでしょうか。
この点について、労働基準法、判例および通達をみながら、休業時の賃金の支給の問題、休業手当の支給対象に触れた上で、自然災害による休業時の休業手当の支給の問題について解説します。
目次
休業時の給与支給問題について
台風を原因とする休業時の給与の問題
Aさんが勤務するX社では、先日の台風の時に一斉休業となりました。
Aさんは、その日も会社へ行こうとすれば行ける状態だったこともあり、休業となった日の給与がどうなるかが気になっています。
Aさんが勤務するX社が部品を納入しているY社は、X社の休業により部品が欠品してしまい休業することとなりました。
Y社に勤務するBさんは、会社が休業を決めたことからその日は休むこととなりました。
AさんとBさんの休業となった日の給与はどうなるのでしょうか。
休業手当の支給について
このような場合、休業手当が支払われるかが問題となりますが、下記のようなことから、Aさんは会社から休業手当の支給を受けられず、Bさんは支給を受けられる可能性が高いものと考えられます。
休業時の賃金と休業手当について
休業と労働基準法26条
このようなケースでは、AさんもBさんも、会社が休業となった日は実際には働いていないのですから、ノーワーク・ノーペイの原則から、その日の賃金は支払われないとも考えられます。
しかし、休業となった日は、AさんもBさんも働こうと思えば働くことが出来たにもかかわらず、会社が休業と決めたことにより働けなくなったともいえ、AさんとBさんが会社に対し労働提供できないようになったのは会社に責任があるとも考えられます。
そうしますと、危険負担について定めた民法536条2項により、休業となった日の賃金請求権は消滅せずに、AさんとBさんは休業となった日の賃金を会社に請求することが出来るようにも思われます。
この点に関し、労働基準法26条では、
(休業手当)
労働基準法26条
第二十六条 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。
と休業の場合には休業手当を支給することを使用者に義務付けています。
二人の場合も、この労働基準法26条により休業手当が支給されるかが問題となります。
労基法26条の「使用者の責に帰すべき事由」について
会社が休業となった場合に休業手当が支給されるかは、労働基準法26条との関係では、休業が「使用者の責に帰すべき事由」によるものなのかにより異なることとなります。
そこで、どのような場合に「使用者の責に帰すべき事由」による休業とされるのかが問題となります。
この点につきまして、最判昭和62年7月17日では、
「使用者の責に帰すべき事由」とは、取引における一般原則たる過失責任主義とは異なる観点をも踏まえた概念というべきであつて、民法五三六条二項(注:債権法改正前、現代語化前)の「債権者ノ責ニ帰スヘキ事由」よりも広く、使用者側に起因する経営、管理上の障害を含むものと解するのが相当
最判昭和62年7月17日
としており、「使用者の責に帰すべき事由」の範囲はかなり広くとらえられています。
自然災害による休業時の休業手当支給について
しかし、労働基準法26条の「使用者の責に帰すべき事由」との文言および上記の判例において「使用者側に起因する・・・障害を含むものと解するのが相当」と判示していることからしますと、不可抗力の場合にまで会社が休業手当の支給義務を負うものではないと考えられます。
このようなこともあり、休業が「天変事変等の不可抗力」による場合、「使用者の責に帰すべき事由」に該当せず、使用者に休業手当の支払義務は生じないとされています。
したがって、Aさんの場合は、休業手当の支給はないこととなります。
自然災害による供給網障害を原因とする休業時の休業手当支給について
親会社の事情から原材料が調達できず休業となった場合の休業手当の支給について、昭和23年6月11日基収第1998号では、
(問) 親会社からのみ資材資金の供給をうけて事業を営む下請工場において、現下の経済情勢から親会社自体が経営難のため資材資金の獲得に支障を来し、下請工場が所要の供給をうけることができずしかも他よりの獲得もできないため休業した場合、その事由は法第26条の「使用者の責に帰すべき事由」とはならないものと解してよいか。
(答) 質疑の場合は使用者の責に帰すべき休業に該当する。
昭和23年6月11日基収第1998号
としています。
また、厚労省の「令和元年台風第 19 号による被害に伴う労働基準法や労働契約法に関するQ&A」では、当該台風による休業に関し、
Q・・・今回の台風により・・・原材料の仕入、製品の納入等が不可能となったことにより労働者を休業させる場合、「使用者の責に帰すべき事由」による休業に当たるでしょうか。
A・・・今回の台風により、事業場の施設・設備は直接的な被害を受けていない場合には、原則として「使用者の責に帰すべき事由」による休業に該当すると考えられます・・・
令和元年台風第 19 号による被害に伴う労働基準法や労働契約法に関するQ&A
としています。
資材の調達先に関しましては、使用者が選択できるとも言い得ます。
そこで、原材料の調達支障による休業は、原材料調達に自然災害の影響があったとしても、原則として「使用者の責に帰すべき事由」による休業に該当することとなり、会社は休業手当の支払義務を負うケースが多いものと考えられます。
したがって、Bさんは、休業手当の支給を受けられる可能性が高いものと考えられます。
休業手当の金額について
休業手当の金額算出の基礎となる平均賃金について
それでは、Bさんの場合、休業手当としてどのくらいの金額を受け取ることが出来るのでしょうか。
条文上からわかりますように平均賃金の60%以上を休業手当として支払ってもらえるのですが、この平均賃金に関しましては、労働基準法12条1項に、
第十二条 この法律で平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日以前三箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいう。・・・
労働基準法12条1項
と規定されています。
更に、12条でいう「賃金」に関しては、労働基準法11条で、
第十一条 この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。
労働基準法11条
と規定されており、給与規程等に支給基準の定めがある場合には、家族手当、住宅手当、通勤手当も「賃金」に含まれるとされています。
そこで、労働基準法11条に該当する賃金総額の平均金額の60%以上が休業手当として支払われることとなります。
出社後に休業となった場合の休業手当の金額
ところで、始業後1時間くらいで、風雨が強くなり、休業となった場合、休業手当は出社していた時間に応じて計算されることとなるのでしょうか。
この点につきましては、昭和27年8月7日基収3445号において、
(問)・・・所定労働時間8時間である日にその日の前半を就業し後半を休業せしめられた場合この休業せしめられた時間に対し、休業手当を支給すべきであるか・・・
(答)・・・1日の所定労働時間の一部のみ使用者の責に帰すべき事由による休業がなされた場合にも、その日について平均賃金の100分の60に相当する金額を支払わなければならないから、現実に就労した時間に対して支払われる賃金が平均賃金の100分の60に相当する金額に満たない場合には、その差額を支払わなければならない。
昭和27年8月7日基収3445号
とされています。
このように、会社は、短時間出勤後に休業した場合でも、その短時間出勤していた間の賃金を含め、少なくとも一日の平均賃金の60%以上を従業員に支払わなくてはならないと考えられています。
尚、この場合、休業手当と別に、実際の稼働時間に対する賃金を支払わなければならないわけではありません。
自然災害に関係した休業時の休業手当について
このように、台風、地震などの自然災害により休業となった場合には、休業手当は支給されず、休業日の賃金は支払われないケースが多いものと思われます。
しかし、自然災害により部品仕入先の工場が生産停止したために、部品が調達できずに休業となったような場合には、休業手当の支給がされることもあります。
また、始業後、短時間出勤後に休業となったような場合、短時間出勤していた間の賃金を含め、一日の平均賃金の60%以上の金額が支払われることとなります。
尚、この場合の平均賃金の算出には、給与規程等に支給基準の定めがある場合には、家族手当、住宅手当、通勤手当も含まれることとなります。