目次
精神的苦痛に対する慰謝料とは
「精神的苦痛を受けたので慰謝料を請求したい」という話はよくあります。
ここでの「苦痛」とは、からだや心に感じる苦しみや痛みを意味します。
したがって、「精神的苦痛」とは、精神的な苦しみや痛みということになろうかと思われます。
一方、「慰謝料」とは、精神的損害に対する賠償金のことを意味します。
ところで、民法709条と710条では、
(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。(財産以外の損害の賠償)
民法709条、710条
第七百十条 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。
と規定されていますが、この710条の「財産以外の損害」には、精神的損害も含まれます。
そこで、慰謝料請求の根拠条文は民法709条と710条であると一般的には考えられています(諸説あります)。
法律相談時などに弁護士が、「精神的損害に対する損害賠償請求」という言葉を用いることがありますが、これは、上記の民法709条および710条の条文からくるものであり、「精神的苦痛(を受けたこと)への慰謝料請求」と意味は変わりません。
慰謝料請求が認められる精神的苦痛について
どのような精神的苦痛に対して慰謝料が認められるのでしょうか
精神的苦痛としては、
- 身体への侵害を伴うもの
- 身体への侵害を伴わないもの
に分類することができます。
前者の身体への侵害を伴う精神的苦痛としては、交通事故、医療過誤、スポーツ事故、公害などによる精神的苦痛があります。
一方、後者の身体への侵害を伴わない精神的苦痛としては、
- 人格的利益への侵害行為による精神的苦痛
- 財産権侵害に伴う精神的苦痛
が考えられます。
このうち、前者の人格的利益への侵害行為としては、名誉棄損、プライバシー侵害行為、不貞行為、労働事件でも問題となる各種ハラスメント行為などがあります。
後者の財産権侵害に伴う精神的苦痛としては、特定人にとって財産的価値以上の価値がある物を棄損されたときの、財産的価値以上の価値への侵害による精神的苦痛が考えられます。
旅行ツアーが募集会社の手違いにより予定通りに催行されなかったときの慰謝料などがこれにあたります。
身体への侵害を伴う精神的苦痛への慰謝料について
身体への侵害を伴う不法行為による損害は、入院費・治療費、収入減少などの財産的な損害と精神的苦痛による損害があります。
ここでは、後者が慰謝料の対象となります。
身体への侵害を伴う事故としては、交通事故の発生件数が多いこともあり、交通事故の慰謝料に関しては、「損害賠償額算定基準」という書籍(「赤い本」などと呼ばれます。)に慰謝料額の基準が示されており、その基準から慰謝料の範囲、金額が決まる傾向があります。
交通事故以外の身体への侵害を伴う不法行為への慰謝料に関しても、この交通事故の基準が参考にされる傾向があります。
特殊な例としては、公害事件においては、収入減少などの財産的損失も精神的損害とあわせて慰謝料の金額に含めて扱われることがあります。
これは、集団訴訟として一律金額を請求するために、すべての損害を慰謝料に一本化して請求する場合におこなわれるものです。
人格的利益への侵害行為による精神的苦痛への慰謝料について
名誉棄損に対する慰謝料について
この類型としては、名誉棄損行為に対する慰謝料が問題となるケースが多く、かつては、マスメディアによる名誉棄損行為が問題とされるケースが多かったものと思われます。
しかし、近時ではネット上での名誉棄損行為が問題とされることが多くなってきています。
名誉棄損に関する慰謝料は、被害者が公人、著名人の場合と一般人の場合とでは金額が異なることが多く、一般人が被害者の場合は数十万円程度が一般的であるといわれています。
プライバシー侵害に対する慰謝料について
プライバシーの侵害としては、近時では、顧客リストの流出が問題とされるケースも多く、その場合の慰謝料は数百円~数千円程度が一般的であるといわれています。
財産権侵害に伴う精神的苦痛への慰謝料について
一般的には、財産的損害が回復されれば、精神的損害も回復すると考えられていることから、この類型の慰謝料が認められることは必ずしも多くはありません。
また、慰謝料が認められても金額は少額に留まることが多いようです。
旅行会社の過失によりツアーが中止されたケース、写真が消失したケースなどで慰謝料が認められた裁判例があります。
この類型の裁判例に関しては、下記の記事で扱っています。