帰責事由、帰責性とは?~その法的意味、問題となる民法の条文など

この記事で扱っている問題

損害賠償の説明などにおいて、「帰責事由」「帰責性」という言葉が使われることがあります。

ここでは、帰責事由、帰責性という用語の法的意味、および民法の帰責事由が問題となる条文について、民法改正の影響に言及しながら解説します。

帰責事由、帰責性とは

帰責事由とは、法的に責任を帰属させる事由を意味します。

契約に基づいて他人から預かった物を返還できなくなったようなケースにおいて、預かっていた人が法的な責任を負うような場合、預かっていた人には帰責性があるといい、その責任を負う事由(原因など)のことを帰責事由といいます。

つまり、このような場合、預かっていた人に帰責事由があると、帰責性が認定され、預かっていた人は、損害賠償責任などの法的責任を負うこととなります。

しかし、帰責事由と帰責性は同義として扱われることも多く、通常その相違はあまり意識されません。

尚、帰責事由は、過失あるいは故意と類似の概念であるとされています。

民法の危険負担の条文

民法536条では、債務者が債務の履行ができなくなったとき、履行できなくなったことにより生じる不利益を、債権者あるいは債務者のいずれが負担するかの問題である危険負担などについて定めていますが、同条2項は次のような条文となっています。

(債務者の危険負担等)
第五百三十六条 
(1項省略)
2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

民法536条

この2項の「責めに帰すべき事由」が帰責事由のことです。

民法改正と債務不履行の損害賠償に関する条文

改正前民法の問題点

2020年4月に改正民法が施行されましたが、改正前の民法の規定である改正前民法415条は、債務不履行時の損害賠償について、

第四百十五条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも同様とする。

改正前民法415条

と規定していました。

この改正前の民法415条後段(第2文)では、債務者が負う債務(前述のケースでは返還するという債務)が履行不能(返還することができなくなった)ケースにおいて、その履行不能が「債務者の責めに帰すべき事由」によるのであれば(債務者に帰責事由がある場合には)、債務者に帰責性が認められ、債務者は損害賠償義務を負うことが明文で定められていました。
その反対解釈として、帰責事由のない場合には免責されるとされていました。

一方、415条前段(第1文)は、履行遅滞あるいは不完全履行の場合を規定したものですが、ここでは、後段とは異なり、「責めに帰すべき事由」あるいはそれに類する用語は使われていません。
しかし、415条前段においても、後段同様、債務者に帰責事由がない場合には、債務者は免責されると解釈上、考えられていました。

このように、履行遅滞、不完全履行においても、帰責事由が認定されない場合、債務者が法的責任を負うものではないことは、条文の文言上からは明確ではありませんでした。

また、「責めに帰すべき事由」、つまり帰責事由の有無は、裁判実務では、契約や社会通念に照らして判断されると考えられていましたが、この点も、条文の文言からは明確ではありませんでした。

改正民法

改正民法では、上記の点を明確にするため、改正前の民法415条を、下記の民法415条1項の条文のように改正しています。
尚、改正民法では、民法415条に下記のように2項を新設し、改正前の415条は、改正民法415条1項に引き継がれた形になっています。

(債務不履行による損害賠償)
第四百十五条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
2 前項の規定により損害賠償の請求をすることができる場合において、債権者は、次に掲げるときは、債務の履行に代わる損害賠償の請求をすることができる。
一 債務の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 債務が契約によって生じたものである場合において、その契約が解除され、又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき。

民法415条(改正民法)

このように、改正民法の415条1項は、

  • 第1文において、履行遅滞、不完全履行および履行不能の場合、原則として法的責任を負うとし、第2文であるただし書きに、帰責事由のない場合に免責されることを明文化し、履行遅滞、不完全履行についても帰責事由がなければ免責されることを文言上も明確に
  • ただし書きにおいて、帰責事由とは、「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由」であることを文言上も明確に

しています。

帰責事由と契約解除

売買契約の目的物を売主が契約で定めた引渡日に引き渡さないなど、債務の履行がなされない場合、債権者が催告をした上で、契約を解除することができることを、下記のように民法541条で規定しています。

(催告による解除)
第五百四十一条 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。

民法541条

そして、例外的に催告をおこなわなくとも契約を解除できる場合があることを民法542条において定めています。

しかし、上記の例において、売主が売買契約の目的物を引き渡せない理由が、買主が引き渡し前に目的物を破損したことであった場合、買主に責任があるとも考えられます。
このように、債権者の帰責事由により債務者が債務の履行ができなくなったような場合の契約の取り消しについて、民法543条は下記のように規定しています。

(債権者の責めに帰すべき事由による場合)
第五百四十三条 債務の不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは、債権者は、前二条の規定による契約の解除をすることができない。

民法543条

同条の「債権者の責めに帰すべき事由」とは、債権者の帰責事由のことであることから、債務の不履行が債権者の帰責事由に基づく場合には、債権者は契約の解除をすることができなくなることがわかります。

このように、債務者の帰責事由のみならず、債権者の帰責事由が法的効果に影響を与えることがあります。

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