特許権も消滅することがあるの?~特許権発生後の消滅事由について

※作成時の法律、判例に基づく記事であり、作成後の法改正、判例変更等は反映しておりません。
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特許権は登録することにより発生しますが、一度発生した特許権も一定の事由により消滅することとなります。
ここでは、一度発生した特許権の消滅事由について確認してみます。

特許権の消滅事由について


法的な権利である特許権は、登録により発生します。

この一度発生した特許権も下記の事由により消滅することとなります。

・特許権の存続期間の終了
・無効審決の確定
・取消決定の確定
・特許料の不納
・特許権の放棄
・相続人の不存在
・独占禁止法100条に基づく特許の取消し

特許権の存続期間の終了について

下記に一部引用しました特許法67条は、特許権の存続期間を特許出願の日から20年と定めています。
そこで、原則として出願日から20年経過すると特許権は消滅することとなります。

ただし、同条2項以下において、特許審査の遅延、医薬特許等一定の事由による存続の期間延長を認めています。

(存続期間)
第六十七条 特許権の存続期間は、特許出願の日から二十年をもつて終了する。
2 前項に規定する存続期間は、特許権の設定の登録が特許出願の日から起算して五年を経過した日又は出願審査の請求があつた日から起算して三年を経過した日のいずれか遅い日(以下「基準日」という。)以後にされたときは、延長登録の出願により延長することができる。
3 前項の規定により延長することができる期間は、基準日から特許権の設定の登録の日までの期間に相当する期間から、次の各号に掲げる期間を合算した期間(これらの期間のうち重複する期間がある場合には、当該重複する期間を合算した期間を除いた期間)に相当する期間を控除した期間(以下「延長可能期間」という。)を超えない範囲内の期間とする。
(同項1~10号省略)
4 第一項に規定する存続期間(第二項の規定により延長されたときは、その延長の期間を加えたもの。第六十七条の五第三項ただし書、第六十八条の二及び第百七条第一項において同じ。)は、その特許発明の実施について安全性の確保等を目的とする法律の規定による許可その他の処分であつて当該処分の目的、手続等からみて当該処分を的確に行うには相当の期間を要するものとして政令で定めるものを受けることが必要であるために、その特許発明の実施をすることができない期間があつたときは、五年を限度として、延長登録の出願により延長することができる。

特許法第67条

無効審決の確定について

特許無効審判の申立てについて

特許権に無効理由がある場合、一定の利害関係人は特許無効審判の申立てをおこなうことができます(特許法123条)
この無効理由は、特許法123条1項1号ないし8号に限定列挙されています。

そして、特許無効審判において請求が認められると「無効審決」、認められないと「不成立審決」がなされます。

無効審決の確定とその効果について

特許無効審判の審理により、無効審決、不成立審決いずれの審決がなされた場合においても、当事者、参加人、参加を申請したが拒否された者は、審決の謄本送達後30日の不変期間内に東京高等裁判所(知財高裁)へ審決取消訴訟を提起することができます。この審決取消訴訟は上告が可能となります。

審決の謄本送達後30日の不変期間内に審決取消訴訟が提起されない場合、あるいは審決取消訴訟の請求棄却判決が確定した場合、審決は確定することとなります。

無効審決が確定しますと、特許権は、最初から、あるいは一定の理由に関しては当該理由が生じた時点から、存在していなかったものとみなされます(特許法125条)。

取消決定の確定について

特許異議の申し立てについて

下記に引用した特許法113条の1~5号の事由がある場合、特許掲載公報の発行日から6か月以内であれば、誰でも特許異議の申立てをおこない、特許の見直しを求めることができます。

(特許異議の申立て)
第百十三条 何人も、特許掲載公報の発行の日から六月以内に限り、特許庁長官に、特許が次の各号のいずれかに該当することを理由として特許異議の申立てをすることができる。この場合において、二以上の請求項に係る特許については、請求項ごとに特許異議の申立てをすることができる。
一 その特許が第十七条の二第三項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願(外国語書面出願を除く。)に対してされたこと。
二 その特許が第二十五条、第二十九条、第二十九条の二、第三十二条又は第三十九条第一項から第四項までの規定に違反してされたこと。
三 その特許が条約に違反してされたこと。
四 その特許が第三十六条第四項第一号又は第六項(第四号を除く。)に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたこと。
五 外国語書面出願に係る特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項が外国語書面に記載した事項の範囲内にないこと。

特許法第113条

特許異議の申立てがなされ、審理の結果、申立てが認められると「取消決定」、認められないと「維持決定」がなされます。

取消決定の確定とその効果について

取消決定に対し不服がある場合、特許権者は、決定の謄本送達後30日の不変期間内に東京高等裁判所(知財高裁)へ特許取消決定取消訴訟を提起することができます(特許法178条)。この特許取消決定取消訴訟は上告が可能です。

尚、維持決定に対しては、取消訴訟などの不服申立てはできません(特許法114条5項)。

この30日の不変期間内に取消決定の取消訴訟が提起されない場合、あるいは取消訴訟の請求棄却判決が確定した場合、取消決定は確定することとなります。

取消決定が確定しますと、特許権は最初から存在していなかったものとみなされます(特許法114条3項)。

特許料の不納について

特許権者は、規定の特許料を期限内に納付する必要がありますが、納付をおこなわないと特許権は消滅します(特許法107、108条)。

しかし、一定の場合、特許料の減免又は猶予が認められています(同法109条、109条の2)。

更に、納付期間内に納付しなかった場合も、納付期間の経過後6か月以内に特許料を追納することができ、追納した場合、一定の範囲で特許権の回復が認められることとなります(同法112条~112条の3)。

特許権の放棄について

特許権も放棄することは可能ですが、当該特許権に専用実施権者、質権者が存在する場合には、それらの者の承諾が放棄に必要となります(特許法97条)。

尚、登録しなければ放棄の効果は生じません(同98条1項1号)。

相続人の不存在について

民法上、財産権者が死亡した場合、相続人の不存在による残余財産は国庫へ帰属します。

しかし、特許権に関しては、他の遺産と異なり、特許権自体が消滅することとなります(特許法76条)。

独占禁止法100条に基づく特許の取消しについて

独占禁止法100条は下記のように規定し、これにより一定の場合、特許が取り消されることとなります。

第百条 第八十九条又は第九十条の場合において、裁判所は、情状により、刑の言渡しと同時に、次に掲げる宣告をすることができる。ただし、第一号の宣告をするのは、その特許権又は特許発明の専用実施権若しくは通常実施権が、犯人に属している場合に限る。
一 違反行為に供せられた特許権の特許又は特許発明の専用実施権若しくは通常実施権は取り消されるべき旨
(2号省略)
② 前項第一号の宣告をした判決が確定したときは、裁判所は、判決の謄本を特許庁長官に送付しなければならない。
③ 前項の規定による判決の謄本の送付があつたときは、特許庁長官は、その特許権の特許又は特許発明の専用実施権若しくは通常実施権を取り消さなければならない。

不正競争防止法第100条
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